記事サムネイル画像

「先生に意見したら損をする…」学校の実態…言いたいことが言えない現実。学校を変えるカギは?【参議院議員 伊藤たかえ氏インタビューvol.2】

「このルールって本当に正しいの?」「こんな校則はヘンだと言いたかったけれど、内申書に響きそうで言えなかった」。学校には、そんな子どもたちの小さな“あきらめ”が積み重なりがち。それらは「どうせ声を上げたって何も変わらない」という感覚を知らず知らずのうちに植え付けてしまいます。

しかし、学校生活をより良くするために声を上げることは本来、子どもに認められた大切な権利のはず。

2025年3月、愛知県選出の参議院議員・伊藤たかえ氏が主導し、国民民主党が参議院に提出した、「学校内民主主義法案」は、子どもたちが「声を挙げる→話し合う→変える」経験を、学校の中に“仕組み”として埋め込み、やがて彼らが、“社会は自分たちの手で変えられるものだ”と当たり前に思える社会をつくっていくため、土台となりうる法案です。

 

学校を“民主主義の実地訓練の場”として捉え直す発想を、伊藤たかえ氏に聞きました。

校則は変えられる!「なぜ?」から始まる民主主義の萌芽

ーーそもそも「学校内民主主義法案」とは、どんな法案なのでしょうか?

 

伊藤たかえ議員(以下、伊藤):子どもたちが、自分たちは権利の主体なのだということを知り、自分たちを取り巻く環境をより良くしていくために意見を持ち、話し合いや交渉を経て、実際に変えていくための法案です。また、その行動によって不利益な取り扱いを受けないよう、制度化しているところもポイントです。
 
これまでも文部科学省は、生徒指導提要の改訂をおこない、校則の見直しや情報公開等の必要性を発信してきましたが、それらに強制力はありません。そのため、取り組みは学校や自治体によってまちまちでした。

 

法案化することによって、児童生徒の意見表明の機会を確保し、ルール作りに関する情報公開を徹底することはもちろん、自治体間の格差もなくしていきたいと思いました。


ルールは守るべきものではありますが、同時に変えるもの、つくるものでもあります。

 

「大人が決めたこと」に従うだけで終わらず、想いを言語化し、自分の役割や相手の立場も慮りながら着地点をみつけて合意し、その後も絶えず仲間を募りながら改善をする——こうした力は、子どもたちが将来、どんな場所で働いたとしても必ず必要になる筋力で、この試行錯誤こそが「学び」なのではないかと考えています。

 

ーーこうした力を個人の努力だけに任せるのではなく、なぜ今、法案も含めて“仕組み”として整える必要があるのでしょうか?

 

伊藤:いちばんの理由は、「意見を言えるかどうか」が、学校や先生によって違うからです。意見表明は大事だと言われても、子どもたちの中には、「どこに言えばいいのかわからない」「言ったら面倒なことになるかもしれない」といった不安が残っていて、結果として黙ることを選択しているのが実情です。

 

これは勇気の問題ではありません。言える場所や機会をつくり、変えるために必要な手順を示し、更には、言っても損をしない安心を“仕組み”として整える必要があります。

 

もうひとつは、社会が変化していることです。AI(人工知能:Artificial Intelligence)が即時に答えを返してくれる今の時代に必要なのは、正解を暗記する力ではなく、自ら問いを立て、事実をもとに熟議を尽くして合意をつくり、異なる意見の人にも根拠や想いを懸けて説明する力です。

 

その練習を学校の中でもっとできるようにするには“仕組み”が必要なのです。
 

伊藤たかえ氏

 

ーーこの法案を通じて、子どもたちに身につけてほしい経験とは具体的にどのようなことでしょうか?

 

伊藤:子どもたちが、「なぜこのルールが必要なんですか?」と聞いても、大人から、「よくわからない」「ずっと前からあるから」などと返されることは少なくありません。根拠がはっきりしないまま、私権(生徒個人の権利)を制限するような校則、たとえば男女交際は禁止、下着は白色限定、給食や掃除の時間は沈黙など、なぜだかわからないルールが、今日も全国各地で運用されています。

 

極端なことを言えば、校長先生が「今日から全員、黒い服しか着るな」と言えば、それが通ってしまう——。それに対して子どもたちが抗う根拠となる法律は現状、わが国にはありません。

 

本来は「なぜ黒だけなのか」「黄色でもいいのではないか」と校長に問い、当事者の声や専門家の声、黄色でもいいといえる根拠を集めて提示し、議論した上で、決まったことには従っていくもの。こういったプロセスを経験することは、一筋縄ではいかない“社会”を感じることでもあります。

 

校則は子どもたちの生活に直結しているからこそ、主権者教育の教材として最適だと思いました。

 

2015年6月、わが国では選挙権が得られる年齢を「20歳以上」から「18歳以上」にする改正公職選挙法が成立しました。子どもたちは18歳になった途端、「あなたの1票で社会が変わる」と言われ、正直戸惑っています。「1票だけで、変わるわけなくない?」と。

 

これまでにひとつの声が何かを変えることを目の当たりにしたこともなければ、変えられた成功体験もない。社会に漂う「実感を伴わない一票の価値」は、18歳までの主権者教育が空振りしていることの証左です。

 

だからこそ今、学校内民主主義法案を超党派で成立させ、思春期の子どもたちに、学校内で民主主義を実地で学んでもらうことには大きな意味があると思っています。

 

ーーこうした経験を積んだ子どもたちが社会に関わっていくことで、世の中はどう変わっていくと考えていますか?

 

伊藤:経験を得た子どもたちは、学校の外でも「自分の意見には変える力があるかもしれない」と思うようになります。何が問題で、どのように変えたらいいと思うかを言葉にして、根拠を示しながら提案できるようになるでしょう。

 

それは将来、職場での理不尽な慣習やハラスメントを黙認したり我慢したりするのではなく、改善につなげようとする地力になるのではないでしょうか。ルールを“誰かが決めたもの”として受け身で流すのではなく、必要に応じて見直していくものだと認識している人が増えることは、今の社会に漂う他責や閉塞感に風穴をあけてくれるはずです。

 

法案提出後のいま 現場の声で「必要性」を積み上げる

ーーこの法案について、他の国会議員からは、どんな反応や受け止めがありますか?


伊藤:国会内の反応は、「総論賛成、各論反対(※)」といった印象です。ある議員からは「教員は忙しい。子どもたちの意見をいちいち聞いていたら統制がきかなくなる」と反対されて、なるほどこれが国会の現在地か、と思いました。

※ある案などについて、趣旨には賛成するが、個々の具体的事柄には異議をとなえること。

 

これから私は、「なぜ今、この法案が必要なのか」という立法事実を、もっともっとかき集めなければなりません。

 

文部科学省は2025年、校則の見直しや生徒の意見を反映する取り組みについて初めて調査を実施し、公表してくれました。

 

無作為で抽出した、公立中学校400校と公立高等学校400校の内、約15%が生徒または保護者から意見を聴取する機会を設けておらず、約29%が校則等の制定または変更に関する手続きを定めていませんでした。

 

また、約43%が校則等を学校のホームページにすら掲載していません。生徒指導提要や文科省通知は大きな前進である一方、効果は限定的だったと言わざるを得ません。

 

ーー学校の先生たちの反応はどうですか?また、この法案が成立して現場に持ち込まれた場合、学校にはどのようなことをお願いしていくことになるのでしょうか?

 

伊藤:「子どもの声をきちんと受け止めることは大事だね」「学校の中でそういう経験ができるのはいいね」と、前向きに受け止めてくださる先生方が多い印象です。すでに似たような取り組みをしている学校もあり、「やる前は大丈夫かな?と思ったけど、子どもたちは我々が思っているより冷静」「これを全国で当たり前にできるようになる法案には意味がある」とおっしゃった先生もいます。

 

学校へのリクエストとして想定していることは、大きく4つです。

 

1つ目は、意見表明の機会確保。子どもたちが意見を言える場を用意すること。さらに、出てきた意見を「聞いて終わり」にせず、学校として考慮する努力を求めます。

 

2つ目は、ルールの見える化(情報公開)。校則や生徒心得などを、インターネット上で公表し、入学する前にわかるようにするようお願いをします。


3つ目は、先生側の理解を支える仕組み。教員養成課程はもちろん、研修や勉強会を通じて、子どもの意見表明権の重要性を学べるように要請します。

 

4つ目は、声を挙げた生徒に不利益な扱いをしないという担保。意見表明の内容によって制裁が行われないよう、チェックをする仕組みは肝要です。

うまくいく学校は、個人技に頼らない

ーー「すでに学校内民主主義が機能している」と言える学校もあるのではないかと思います。機能していない学校と機能している学校との違いはどこにあるとお考えでしょうか?

 

伊藤:現在、機能している学校の多くは、「先生や校長先生の頑張り」によるもので、彼らの熱意も後押しになっていると感じます。ただ、誰が担当になっても機能するよう“仕組みとして”整っていないと、意味がありません。

 

熱心な先生がいる学校では、アンケートを取ったり対話の場をつくったり、生徒会の提案を受け止めたりということが自然にできています。しかし、それらを個人の熱意や努力に頼っていると、人が入れ替わった瞬間に、すべてが消えてなくなるというのは、どの世界でもよく聞く話です。

 

だからこそ、最低限の「ルールの見える化(情報公開)」と「意見を出し、議論に参加できる機会」が担保されている状態にしたいと考えています。それが叶えられるのが法律です。
 

伊藤たかえ氏

 

「勇気」より先に、言える“場”と“手順”を用意する

ーーこの法案が実現したとしても、言いたいことがあっても声を挙げられない場面は、きっと残ると思います。そうした壁を少しでも低くするために、制度の運用や学校現場では、どんな工夫が必要だとお考えですか?

 

伊藤:そうですよね。大人でも、自分の気持ちを言葉にするって本当に難しい。だから私は、「勇気を出して言いましょう」みたいな精神論にしたくないんです。言える“場”があり、“変える手順”が決まっていて、それがきっかけで実際に変わった事例をいくつも積み重ねていくことでしか、地殻変動は起こせません。

 

たとえば、年に1回でもいいので「言ってもいい日」をつくって、校則や学校生活の「これって必要?」をテーマに、子どもも先生も保護者も一緒に話せる場をつくるとか……。

 

最初は盛り上がらないかもしれないし、いきなり答えを出す場でなくてもいい。「モヤモヤを言葉にしてみる」「人のモヤモヤを聞いてみる」「ふと自分ごとになる」という経験が、まず初めの一歩になります。そして、「言っても大丈夫」が担保されれば、子どもたちは必ず、彩り豊かな疑問を大人にぶつけてくるでしょう。

 

よく「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括性)」と言われていますが、実は順番は逆なんだと思います。多様性を包括する、と言っているうちは、大した多様性は生まれません。


大切なのは、まずさまざまな人を受け入れ(インクルージョン)、安心して関われる環境をつくること。そうした包み込む姿勢があるからこそ、結果として本当の多様性(ダイバーシティ)が生まれるのです。

 

私は、思考の多様性こそ問題解決力の源だと信じています。社会の対立や矛盾を乗り越える力を子どもたちに贈りたい。そのひとつが、この「学校内民主主義法案」なのです。
 

伊藤たかえ氏

ベビーカレンダー編集長・二階堂美和と伊藤たかえ氏

 

♢♢♢♢♢♢

 

「おかしい」と感じても、波風を立てないようにその違和感を飲み込んでしまう。そんな小さなあきらめの積み重ねが、子どもたちから、社会は変えられるものだという感覚を奪っているのかもしれません。

 

伊藤たかえ氏が説く「学校内民主主義」は、単なるルール作りではなく、子どもが環境の主体者として対話の術を学ぶための大切な訓練です。

 

この「言えば変わる」という成功体験は、学校だけでなく家庭でも育めるはずです。親として、子どもの「なぜ?」を封じず、対等に話し合ってルールを更新していける仕組みが家の中にもあれば、それは子どもにとって何よりの安心感と自信になるのではないでしょうか。

 

ベビーカレンダーも、子育てを通じて感じた「おかしい」という声に寄り添い、誰もが声を上げることでより子育てしやすい社会を作っていきたいと考えています。
 

ベビーカレンダー記事制作の取り組み
\ この記事にいいね!しよう /
シェアする

  • コメントがありません

気になる記事をまとめ読み

人気連載

新着連載

連載完結

もっと見る

注目記事を探す

人気記事ランキング

アクセスランキング
コメントランキング

お得な無料キャンペーン

特集の新着記事

PICKUP