それから3カ月ほど経ったころ、夫の行動に違和感を覚えるようになりました。休日出勤や勉強会と称した外出が増え、家にいる時間は目に見えて減少。さらに身なりにも急に気を使い始め、香水まで纏うようになったのです。
自分磨きに目覚めたと本人は言いますが、あまりのギャップに戸惑うばかり……。
さらに、結婚記念日も忘れられてしまいました。ケーキを用意して待っていたのに、夫は泥酔して帰宅。翌日もあっさり流されてしまいました。
「一緒に過ごしたい」と伝えても、夫は「家でダラダラするのは時間の無駄。もっと自分を高めないと」と素っ気ない返事。以前の夫とはまるで別人のようで、小さな寂しさが積もっていきました。
膨らむ違和感
違和感は日を追うごとに膨らんでいきました。休日はほとんど家におらず、予定を聞いても曖昧にはぐらかされるだけ……。限られた人生の時間を有意義に使いたいのだと夫は言いましたが、その言葉の裏に何かが隠れているように聞こえて仕方ありませんでした。
忙しいと断られたゴールデンウィークも、本当に仕事だったのかどうかわかりません。価値観が変わるような出会いでもあったのかと遠回しに聞いてみても、別に誰の影響も受けていないと否定するばかり。
でも以前の夫は家で一緒にお菓子を食べながら映画を観る時間を何より大切にしていた人です。その人が急に予定をぎっしり詰めなければ落ち着かないなんて、どう考えても不自然でした。
確たる証拠がないまま疑いを口にすることもできず、私はモヤモヤを抱えたまま過ごすしかなかったのです。
義父が危篤!?
ある日曜の昼過ぎ、夫から急な連絡が入りました。「親父が倒れて救急搬送されたんだ。危篤状態だから今すぐ実家に帰る。数日は戻れない」——そんな内容でした。
私は一瞬息を飲みました。けれど次の瞬間、目の前の光景に我に返ります。
実は、夫からの連絡が入る直前、仕事から戻った私を出迎えたのは、玄関の前で気まずそうに立っていた義父でした。大学の同窓会で近くまで来たものの、10年の空白が壁となり、連絡できずに家の前をウロウロしていたようです。あまりの挙動不審ぶりに、最初は不審者かと警戒したほどでした。
「……お義父さん、今うちのリビングでお茶を飲んでるんだけど」——。努めて冷静に返した瞬間、スマホの向こうで夫が息を呑み、凍り付く気配が伝わってきました。
あまりにも出来すぎたタイミングに力が抜ける思いでしたが、同時にこれで確信が持てました。なぜ滅多に連絡を取らない義父を口実に使ったのか。なぜ数日帰れないという設定が必要なのか。ここ数カ月の違和感がすべて一本の線でつながったのです。
夫はジョークのつもりだったと苦しい弁解を並べましたが、辻褄が合うはずもありません。私は冷静に、だが逃げ道を残さないように問い詰めました。
この数カ月の行動をすべて説明してほしい、先週も先々週も、ゴールデンウィークも、本当に言っていた通りの場所にいたのか——。
夫の嘘
電話越しからも、夫の顔から血の気が引いていくのがわかります。長い沈黙のあと、ようやく観念したように謝罪の言葉を口にしました。
私に隠れて会い、一緒に時間を過ごしていた相手は夫の幼なじみで、高校時代の元交際相手だそう。半年前にSNSで再開し連絡を取り合うようになり、不倫関係に至ったとのことでした。
隣で一部始終を聞いていた義父の表情がみるみる険しくなっていきました。10年以上ほとんど口も利かなかった息子の不始末を、こんな形で知ることになるとは……。
義父は、その場で私のスマホを手に取り、夫と相手に対し「親として看過できない。相応の誠意を見せてもらう」と宣言。逃げ場のない口調で、当事者同士での厳格な話し合いを命じました。
義父の存在をこれほど心強く思ったことはありません。皮肉にも、疎遠だった親子の間に、不倫という最悪の形で接点が生まれてしまったのです。
思い返すと…
義父の立ち会いのもと離婚に合意し、1週間後、私は荷物をまとめて家を出ました。話し合いは、義父が間に入ってくれたおかげで滞りなく進んでいます。
その後、不倫相手は周囲からの非難に耐えかねたのか、連絡が取れない状態になったと聞きました。
夫は「魔が差しただけだ、やり直したい」と必死に食い下がりましたが、私の気持ちはもう二度と戻りません。別れ際、私はひと言だけ夫に伝えました。「限られた人生の時間は有意義に使いたいから」——それはかつて夫が私に向けた言葉です。
その言葉が最後に自分自身に返ってきたことを、夫はどう受け止めたのでしょうか。あの日のことを思い出すと、今でもつい笑ってしまいます。義父が来ているその瞬間に、よりによって義父の危篤を嘘に使うなんて。あの間の悪さだけは、ある意味で忘れられない思い出です。
◇ ◇ ◇
日々の小さな違和感を見過ごしているうちに、気付けば取り返しのつかない場所まで来てしまう——そんな経験は、誰にでも起こりうるものかもしれません。
信頼は一度失えば簡単には戻りません。パートナーとの関係において、誠実であることの大切さ。そして、嘘はいつか必ず明るみに出るということを、改めて考えさせられる体験談でしたね。
【取材時期:2026年2月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。