突然の電話
新婚旅行先のホテルで、僕は手元のスマホを何気なく確認しました。すると、見覚えのない番号から着信が何件も入っていたのです。どうやら気づかないうちに、何度も電話がかかってきていたようでした。
その相手に心当たりはありませんでしたが、少し前から連絡の取れない双子の兄のことが頭をよぎり、胸騒ぎがしました。兄は昔から自由奔放で、周囲に迷惑をかけることも少なくありません。先日の結婚式にも姿を見せなかったため、なんとなく嫌な予感がしました。
そして、妻とビーチの景色を楽しんでいたとき、また同じ番号から着信が。何度もかかってきている以上、さすがに無視もできません。僕は慌てて通話ボタンを押しました。すると、聞き覚えのない女性の怒鳴り声が飛び込んできたのです。
「今日から新婚旅行のはずだったのに、まさか来ないつもり!? 家族も来てるのに!」
あまりに唐突で、僕は言葉を失いました。「あの……失礼ですが、どちらさまでしょうか」と尋ねると、相手はさらに声を荒らげます。
「どちらさまじゃないでしょ。あなたの妻ですけど!」
隣で聞いていた妻が、「……妻? えっ、誰?」と目を丸くしています。僕は慌ててスマホを耳から離し、スピーカー通話に切り替えました。見知らぬ女性から「妻」を名乗られ、僕は背筋が冷たくなるのを感じました。
誤解の発覚
僕は混乱しながらも「いや、僕はいま正真正銘の妻と新婚旅行中なんですけど……」と伝えたのですが、どうも話が噛み合いません。そこでビデオ通話に切り替えると、画面越しに僕の顔を見た女性は「今どこにいるの!?」と言ったあと、「……あれ? 別人?」と戸惑いました。
その瞬間、ようやく事情が見えてきました。僕はひと呼吸置いてから、「もしかしたら、僕の双子の兄と勘違いされているのかもしれません」と告げ、双子の弟である自分は今海外にいて、隣に妻がいることも伝えました。
すると、女性は一気に青ざめました。もともと兄とは普段から連絡を取り合っていたそうですが、旅行の直前、兄から「現地では連絡が取りづらくなるかもしれないから、急ぎの用があればこの番号にかけて」と別の番号を伝えられていたそうです。ところが、その番号こそが僕のものでした。兄は自分の連絡先として、僕の番号を勝手に教えていたのです。
しかも話を聞くうちに、兄が彼女と結婚するようなことを言いながら、金銭まで受け取っていたらしいこともわかってきました。ただ、僕にはどうすることもできず、身内として「兄がご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません」と伝えるしかありませんでした。
身勝手な要求に…
ところが、女性の怒りは僕へと向かいました。
「彼が逃げたなら、代わりにあんたが払ってよ。経営者でお金を持ってるって聞いてるんだから。払えないなら、あんたを結婚詐欺で訴えて慰謝料を請求するからね」
すると、静かに様子を見ていた妻が、落ち着いたまま口を開いたのです。
「私は弁護士です。双子でも兄と弟は別人ですし、夫が今回の件にかかわっていないなら、夫に請求するのは難しいと思います。まずはお兄さんと話してください」
きっぱりとしたその言葉に、相手も少し冷静さを取り戻したようでした。ただ、通話が終わっても僕の胸のざわつきは収まりません。
すぐに兄へ連絡すると、しばらくして折り返しがありました。ところが兄は悪びれる様子もなく、「あー、彼女からお金返せって言われてさ。面倒だから新婚旅行はやめたんだよね」と、まるで世間話のように笑ったのです。
あきれ返った僕が責めても、兄は「悪かったって。じゃ」と一方的に電話を切られてしまいました。僕の電話番号や職業を無断で伝えていたことに、まったく反省は見られませんでした。
決別と新たな幸せ
新婚旅行から帰った僕は、両親に一連の出来事を話し、兄とは距離を置くことにしました。これ以上兄と関われば、また同じようなトラブルに巻き込まれると思ったからです。
家族だからと気にかけてきましたが、その甘さが兄の無責任さを許す結果になっていたのかもしれません。いつか、兄が改心してくれたらと思っています。
その後、僕は妻に「助けてくれてありがとう。今度こそ誰にも邪魔されない旅がしたいな。来月あたり旅行に行かない?」と伝えました。すると妻は「新婚旅行に行ったばかりなのに?」と笑いながら、「あなたと一緒ならいつだって楽しいし、次の旅行も楽しみ」と答えてくれました。
あの日の電話は、幸せな時間を一気に壊すものでした。しかし同時に、誰を大切にして生きていくべきかを、僕にはっきり教えてくれた出来事でもありました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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