思いがけない交際の始まり
外科医として多忙を極めていた私は、マッチングサービスで知り合ったA子さんから告白されました。
「よければ、お付き合いしてもらえませんか?」
私は少し驚きながらも、「ぜひお願いします」と答えました。するとA子さんは、「本当に? まだ2回しか会っていないのに」と目を丸くしました。私は「仕事柄なかなか出会いがありませんし、実際に会って好印象だったので、まずはきちんと向き合ってみたいと思ったんです」と伝えました。
A子さんはとても喜び、「お医者さんって本当にすごいですよね」と明るく笑っていました。私は「仕事が忙しい分、相手に負担をかけることもあるかもしれません。それでも大丈夫ですか」と確認しましたが、A子さんは「一生懸命働いている人はステキです」と答えました。
会話の流れで、私の家庭環境についても少し話すと、A子さんは「しっかりしたご家庭で育ったんですね」と言いました。私はそこで、「ひとつだけ、隠し事をしない関係でいたいです」と伝えました。するとA子さんも「私もそう思います」とうなずいたのです。
こうして私たちは、結婚も視野に入れながら交際を始めました。
どこか引っかかる違和感
交際が始まってしばらくすると、私はA子さんに対して、少しずつ違和感を覚えるようになりました。仕事終わりに「遅いから家の近くまで送ります」と申し出ても、「大丈夫です、気にしないでください」とやんわり断られます。住所の話題になっても、はっきりとは教えてもらえませんでした。
私が「まだ信用できないということでしょうか」と聞くと、A子さんは「以前、怖い思いをしたことがあって、慎重になっているんです」と説明しました。そう言われると、それ以上踏み込むことはできず、私は気持ちを抑えるしかありませんでした。
ただ、そのころから、連絡のつかない時間が増えたり、話のつじつまが合わないと感じたりする場面もありました。それでも私は、相手にも事情があるのだろうと受け止めようとしていたのです。
交際から3カ月ほどたったある夜、勤務を終えて帰ろうとしていたときにA子さんの番号から突然連絡が入りました。ところが、聞こえてきたのはA子さんではなく、女の子の声でした。
「ママのお知り合いの方ですか?」
「助けてほしいんです」
一瞬、何が起きているのかわかりませんでした。慌てて事情を聞くと、その子は自分をB美ちゃんと名乗り、「ママが起きない」と必死に伝えてきたのです。私はまず、落ち着いて救急要請をするよう伝え、B美ちゃんにもできる範囲で安全を確保するよう説明しました。その上で、教えられた場所へ向かいました。
到着すると、室内はかなり散らかっており、A子さんは体調を崩して動けない状態でした。私は医療従事者としてその場でできる範囲の対応をしつつ、あとは救急隊に引き継ぎました。
その場で初めて、A子さんがB美ちゃんの母親であることを知ったのです。
隠されていた事実を知って
翌日、容体が落ち着いたA子さんに、私は静かに話をしました。
「昨夜、B美ちゃんから連絡をもらいました」
「お子さんのこと、どうして話してくれなかったんですか」
するとA子さんは申し訳なさそうにうつむき、「言いだすきっかけを失ってしまっていた」と話しました。ほかにも、金銭的な問題や住まいのトラブルなど、これまで聞いていた生活状況とは異なる点がいくつもあることがわかりました。私はそのとき、強いショックを受けました。子どもがいること自体に戸惑ったのではありません。最初に私が「隠し事はしないでほしい」と伝えていたにもかかわらず、大事なことを伏せられていた、その事実がつらかったのです。
後日、B美ちゃんは別居していた父親と生活することになったと聞きました。身近に頼れる大人がそばにいる環境になったことに、私は少しだけ安堵しました。
一方で、A子さんからは「これからも支えてほしい」と言われました。ですが私は、気持ちを整理した上で、「隠し事をされたままでは、これ以上関係を続けることはできません」と、交際を終えることを伝えました。感情的に責めるつもりはありませんでした。ただ、結婚を考える相手だからこそ、見過ごしてはいけないことだと思ったのです。
しばらくしてから、B美ちゃんから「あのとき助けてくれてありがとうございました」という短い手紙が届きました。その一文を読んだとき、私は胸がいっぱいになりました。大人の事情に振り回されながらも、勇気を出して助けを求めたB美ちゃんは、本当に立派だったと思います。
人と向き合う上で、やさしさはもちろん大切です。けれど、それ以上に信頼を支えるのは、誠実さなのだと感じました。どれだけ好意を抱いていても、隠し事を重ねた関係の上に安心は築けません。あの出来事以来、私は改めて、相手の言葉だけでなく、その人の姿勢を見ることの大切さを心に刻んでいます。
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好意を抱いた相手であっても、信頼関係を築く上で大切なのは、やはり誠実なのかもしれません。大事なことを伏せたまま関係を深めてしまうと、後から大きなすれ違いにつながることも。苦しい場面の中でも冷静に線引きをしたからこそ、自分自身も守ることができたのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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