執拗な「取引先いびり」
会場には多くの関連企業が集まっていましたが、弊社が最近特許を取得した独自の技術に注目が集まり、僕の周りには挨拶を求める人々で絶え間なく人だかりができていました。
それが面白くなかったのが、主催側である取引先の部長です。彼は酒に酔った勢いで私に近づくと、強引に私の手からグラスを奪い取り中身をぶちまけました。
「おい、下請けの分際で、そんな高い酒を飲むなよ(笑)」
部長は周りに聞こえるような大きな声で僕を嘲笑いました。僕は苦笑いしながら受け流していましたが、部長の暴走は止まりません。
「君の会社の代わりなんていくらでもいるんだ。分をわきまえろよ。場違いなんだよ、下請けは帰れw」
今時「下請け」などと相手を蔑む発言は完全なコンプライアンス違反です。周囲の社員たちも「なんてことを……」と困惑し、凍り付いたような表情を浮かべていました。
「分かりました、帰ります」
部長の失礼極まりない態度に会場が静まり返る中、僕は静かに、しかしはっきりと言い放ちました。
「……分かりました。これ以上ここにいてもご迷惑なようですので、失礼させていただきます。今後の提携の進め方についても、一度持ち帰って検討し直す必要がありそうですね」
部長は鼻で笑いながら「おう、二度と来るなよ!」と勝ち誇った顔をしています。
しかし、僕はただ会場を去るだけではありませんでした。実は今進めているプロジェクトは、僕たちの会社が持つ特殊な特許技術とノウハウがなければ、今後の運用がままならない極めて重要なものだったのです。
「それでは失礼します。……来週からは、“アメリカ”での新体制準備で忙しくなりますので」
僕がそう付け加えると、後ろにいた取引先の女性社員たちが、顔を真っ青にして絶句しました。
判明した衝撃の事実
実は、僕たちの会社はこの度、海外市場への本格進出と、それに伴うグローバル企業との資本提携が内定していました。数日後にはその詳細が公式に発表される予定で、僕はその準備のため渡米を控えていたのです。
「え、アメリカって……もしかしてあの業務提携の噂、本当だったの……!?」
「あの部品の供給を優先してもらう前提のプロジェクトだったのに……! 取引の条件が悪くなったら、うちの利益どうなっちゃうの?」
女性社員たちの震える声が響きました。
翌日、事の重大さを知った相手方の社長が、真っ青な顔で僕のオフィスに駆け込んできました。先代のころから長くお世話になっていた方だったので、その真摯な謝罪を受け、一度は見送ろうと考えた今回のプロジェクトへの協力自体は、お引き受けすることにしました。
ただ、当然タダでは起きません。提携先とも協議した結果、「ぜひ唯一無二の技術を貸してほしい」という向こうの懇願を受け、当初の提示よりも弊社側にぐっと有利な、まさに「対等なパートナー」としての条件で新規契約を結ぶことになったのです。
相手企業にとっては、たった一人の部長の無礼のせいで、喉から手が出るほど欲しかった技術の「優先権」を失いかけ、結果として多額のコストを支払って契約を勝ち取るという、あまりに痛い「自爆」となりました。
件の部長は、会社に特大の不利益をもたらした責任を問われ、即座にプロジェクトから更迭。今は閑職に追いやられ、かつて馬鹿にしていた企業との調整係として、毎日ペコペコと頭を下げる日々を送っているそうです。相手の立場によって態度を変えることの危うさを、今頃身をもって噛み締めていることでしょう。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。