忍び寄る「自分勝手な親切心」の影
「木曜日、家にいるよな? 妹の子どもを預かることにしたから。よろしくな」
夫の妹さんは最近、夫の不倫が原因で離婚したばかりのシングルマザーでした。4歳の男の子を1人で育てて大変なのはわかります。でも、私は今、妊婦。自分の体一つを支えるのだって精一杯の時期でした。
「9時から20時までなんて無理だよ。4歳の子と走り回る体力なんてない……」
不安でいっぱいの私の訴えを、夫は鼻で笑い飛ばしました。
「4歳なら動画でも見せておけばいいだろ。お前、妊娠してからずっとダラダラしてるんだから、少しは運動になるんじゃないか?」
ダラダラしている? 私はつわりの時期も、体が重くなってからも、家事を必死にこなしてきました。それを「怠けている」と捉えていた夫の言葉に、私の中で何かが静かに崩れていくのを感じました。
夫から突きつけられた、あまりに冷酷な言葉
結局、夫の強引な進め方により、週3で甥っ子を預かることになりました。
実際に預かってみると、現実は想像以上に過酷でした。4歳の男の子はまさに「小さな怪獣」。家中を走り回り、目は離せず、まともに食事をとることすらできません。
「もう体力の限界だよ。預かる頻度を減らせない?」
夜、疲れ果てて夫に相談しましたが、返ってきたのは共感ではなく、激しい叱責でした。
「家族付き合いは大切にしろよ! お前だって俺の家族の一員だろ? 困っている妹を助けるのは当たり前だ」
さらに夫は、耳を疑うような暴言を重ねました。
「そもそも専業主婦なんてニートと同じだろ。1円も稼いでないんだから、子守りくらい余裕でできるはずだ。今から音を上げてたら、まともな母親になんてなれないぞ」
……ああ、この人は私のことを「パートナー」ではなく、自分の家族に尽くすための「便利な道具」としか思っていないんだ。
冷徹な夫の目を見て、私の中で何かがぷつりと切れました。
「わかった。あなたはそう思うのね」
悲しみを超え、私の心には静かで激しい「闘志」が宿ったのです。
逆転の準備
私はすぐに実の姉に連絡を取りました。私の姉には、2人の男の子がいます。5歳と10歳の男の子でまさにエネルギーの塊のような兄弟です。
「お姉ちゃん、お願いがあるの。結婚記念日のお祝いで、旦那さんとゆっくりデートしてこない? その間、うちで子どもたちを預かるよ。旦那が『子守りは余裕だ』って言うから、ぜひお願いしたくて」
姉は驚きながらも、私の状況を知って全面的に協力してくれることになりました。
そして、夫には「姉夫婦がデートするから、うちで子どもを預かることにしたよ。あなたが言うように家族付き合いは大切だし、あなたなら子守りなんて余裕だもんね」とだけ伝えました。
夫は「お前の怠慢を証明してやるよ」と、どこまでも余裕の表情。
私はその日、あえて「健診のあとに職場へ挨拶に行ってくる」と告げ、朝から家を空けました。もちろん、姉の家から「2人の甥っ子」たちが到着するのを見届けてからです。
阿鼻叫喚のクライマックス。逃げ場を失った夫の絶叫
私が外出して数時間後。夫から狂ったようなLINEが連打されました。
「おい! 2人なんて聞いてないぞ! 家の中がめちゃくちゃだ、早く帰ってこい!」
「無理だ、こんなの頭がおかしくなりそうだ!」
私は冷静に返信しました。
「え? 家族付き合いは大切にしろって言ったのはあなたでしょ? 甥っ子の人数すら把握してなかったの? 自分勝手だね」
「それに、4歳児一人を預かるのが余裕なら、2人でも平気でしょ? 世の中にはもっとたくさんの子どもを育てている人もいるんだから、それに比べたら楽なはずだよ」
以前、夫が私に放った言葉をそのまま返すと、夫からは「仕返しのつもりかよ!」と逆ギレの返信が。
しかし、私は手を緩めません。
「これは仕返しじゃないわ。あなたが私に強要したことと同じことを、あなたが実体験しているだけ。他人の子を預かるのがどれだけ精神を削り、どれだけ気を使うことか……妊婦の私にそれを1カ月も週3でやらせて、『ニートの甘え』だと言ったこと、一生忘れないから」
「もしこれからも育児を私だけに押し付けるつもりなら、このまま離婚届を書いてもいいわよ。飾りだけの旦那なんていらないから」
夫からの返信は、しばらく途絶えました。
ようやく手に入れた「本当の家族」としての自覚
夕方、私が家に帰ると、そこには魂が抜けたような顔で床に座り込む夫の姿がありました。
夫は私の顔を見るなり、震える声で謝罪しました。
「……すみませんでした。子守りがこんなに大変だなんて、想像もしていなかった。お前にばかり負担を押し付けて、本当にひどいことを言った。離婚だけは勘弁してくれ」
夫は、自分がどれだけ「甘ったれ」だったかを痛感したようでした。
その後、夫は義妹に「今の妻には負担が大きすぎる」とはっきり伝えてくれ、預かる頻度を大幅に減らしてくれました。義妹も、自分のことでいっぱいいっぱいで私への配慮が欠けていたと、丁寧に謝罪してくれました。
何より変わったのは、夫自身です。
あれほど無関心だった私の親族とも積極的に交流するようになり、育児についても本を読んで勉強するようになりました。
無事に生まれた我が子の育児も、今は「手伝う」ではなく「自分事」として、毎日奮闘してくれています。
あのとき、勇気を出して本当によかった。
「お互いを思いやる」という当たり前のことが、ようやく私たちの家庭にも根付いたような気がします。
◇ ◇ ◇
妹の苦労を助けてあげたいという気持ちも大切ですが、一番大切にすべき妻の犠牲を前提にするのは本末転倒ですよね。育児や家事は、決して「誰でもできる簡単なこと」ではありません。それを実体験を通して理解し、互いに感謝の気持ちを持ち続けることを大切にしていきたいですね。
【取材時期:2026年4月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。