同級生に門前払いされ…
視察先の旅館に到着し、フロントで受付を済ませようとしたとき、対応に出てきたのは高校時代の同級生・B山でした。彼は昔から人を見下すようなところがあり、正直あまり得意な相手ではありませんでした。しかし、まさかこんな場所で再会するとは思ってもいませんでした。
予約名を伝えると、B山は端末を確認しながら眉をひそめ、「そのお名前ではご予約が入っていませんね」と冷たく言い放ちました。今回の予約は秘書名義で手配されていたため、私の名前では登録されていなかったのです。
すると彼は、どこか見下すような笑みを浮かべながら、
「あなたご予約されていませんよね? どうぞお引き取りください」
と、はっきり口にしました。
思わず言葉を失いましたが、こちらが説明しようとしたそのときでした。
女将のひと言で空気が一変
奥から女将のA子さんが慌てて駆け寄ってきました。そして私の顔を見るなり、「社長、お待ちしておりました。特別室へご案内いたします」と深く頭を下げたのです。
その瞬間、B山の表情が凍りつきました。自分がぞんざいに追い返そうとしていた相手が、まさか運営会社の社長だったとは思っていなかったのでしょう。
先ほどまでの強気な態度は一変し、言葉を失って立ち尽くしていました。私はその場では何も言い返さず、A子さんに案内されて客室へ向かいましたが、内心では何とも言えない複雑な気持ちになっていました。
新旅館の女将に抜擢した理由
視察を進める中で、私はA子さんの接客や現場をまとめる力に強く惹かれました。宿泊客への細やかな気配り、スタッフへの的確な指示、そして海外のお客さまにも自然に対応する英語力。以前から進めていた新旅館プロジェクトの中核を任せるなら、この人しかいないと確信したのです。
後日、改めて話し合いの場を設け、新旅館の女将として正式にお願いすることになりました。
その結果、新旅館はオープン直後から高い評価を受け、口コミでも評判が広がっていきました。おもてなしの質が話題となり、予約が埋まる日も増えていったのです。
一方で既存旅館に見えた課題
一方、A子さんが抜けた既存旅館では、少しずつ問題が表面化していきました。
A子さんの異動を決める際には、既存旅館の運営に支障が出ないよう、後任の育成と業務分担の見直しも同時に進めていました。現場体制としては十分に機能すると判断していたのですが、実際にはB山を中心とした接客品質の低下が想定以上に早く表面化したのです。
私は経営者としてこの状況を重く受け止め、スタッフ教育と運営体制の見直しに着手しました。B山とも改めて面談をおこない、接客の基本やおもてなしの姿勢について一から見直すことにしたのです。B山自身も、自らの対応を振り返りながら、少しずつ接客への意識を改めていくようになりました。
まとめ
今回の出来事を通して、旅館の価値を支えているのは建物や歴史だけではなく、現場でお客さまと向き合う「人の力」なのだと改めて実感しました。新旅館は順調に成長を続け、既存旅館もサービス改善によって少しずつ評価を取り戻しています。
経営者として、現場の声に耳を傾けながら、本当に愛される旅館づくりをこれからも続けていきたいと感じた出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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