インターホンが鳴ったのは、夫が仕事へ出かけた直後。モニターに映っていたのは、遠方に住んでいるはずの義母でした。事前に何の連絡もなかったため、正直驚きました。
戸惑いながらドアを開けると、義母の隣には大きなキャリーバッグが……。
「今日からしばらくここに住むわね」
そう言いながら、義母は私の返事も待たずに家の中へ入ってきたのです。
突然の同居宣言
リビングを見回した義母は、すぐにため息をつきました。
「ちょっと散らかってるわね」
掃除の途中だったと説明しましたが、義母は納得していない様子で、小言を続けます。悪気がないのはわかっていましたが、私は昔から義母の遠慮のない物言いが苦手でした。
どうしてうちに来たのかと聞くと、「昨晩、お父さんと喧嘩しちゃって……朝イチで家を飛び出してきた」とのこと。このままではまずいと思った私は、義母に悟られないように義父に連絡を入れたのです。
その日の夜、夫が帰宅して間もなく、義父も駆けつけてくれました。しかし、義父が説得しても、義母は帰る様子を見せません。
「迷惑かけてないからいいじゃない」
「しばらく離れて暮らしましょうよ」
義母はそんな主張を繰り返すばかりで、話し合いは平行線。喧嘩の理由を尋ねても、義母は答えず、義父も言葉を濁すのみでした。
そのタイミングで、夫がとんでもない一言を発したのです。
「母さん、しばらくうちにいればいいんじゃない?」
あまりにもあっさりとしたその一言に、私は耳を疑いました。馬が合わない義母と同居なんて、まっぴらごめんです。
私がやんわりと反対すると、夫は途端に不機嫌に。
「家賃は俺が払ってるんだからいいだろ」
「母さんと暮らすのが嫌なら、お前が出て行けば?」
そう言って話を打ち切ってしまったのです。義父は困惑した表情を浮かべていましたが、夫の頑なな態度にそれ以上何も言えず、結局、申し訳なさそうに一人で帰っていきました。
義母への不信感
こうして、私の意思とは関係なく、完全に味方を失った状態での同居生活がスタート。
その翌日から、義母は私の家事や料理に口を出すようになりました。「こうしたほうがいい」「それは違う」と指摘が続き、次第に私は指示を受ける立場になっていきました。
気づけば、家政婦のように扱われている感覚がありました。
追い打ちをかけたのは、夫が義母にお金を渡していたことを知ったときです。派手な暮らしをしないとはいえ、生活費に余裕があるわけではないのに、義母にねだられるままお金を渡している夫の姿に、私は強い不信感を覚えました。
夫と2人のときに「義母に帰ってもらいたい」と話したこともあります。しかし返ってくるのは「嫌ならお前が出て行けばいいじゃん」という冷たい言葉だけ。
「俺が金稼いでるんだから、母さんに渡すのも俺の勝手じゃん」
「母さんの希望は叶えてやってくれよ」
夫にまでないがしろにされて、私の中では次第に悲しさよりも怒りのほうが強くなっていきました。
「わかった。お義母さんの希望は全部優先するってことでいいのね?」と確認すると、夫は「そうだ」と一言。だから私は、その言葉通りに行動することにしたのです。
数日後――。
義母が自室に最新式のエアコンをつけたいと言い出しました。夫はすぐにネットで購入手続きをしようとしましたが、クレジットカードの決済が通りません。確認してみると、カードが利用停止になっていました。
「どうして……」と驚く夫とともに引き落とし口座を確認すると、残高はすっからかん。先月のカードの請求分も引き落とされていなかったのです。
何にそんなにお金を使ったのかと聞いても、夫は頭をひねるばかり。しかし、ようやく義母に頻繁に渡していたお金がわが家の家計を圧迫していたことに気づいたようでした。
「そんなに渡してたっけ……?」と初めて事態の深刻さを把握した夫。カードの請求もハガキで来ていたのに、目を通していなかったようです。
義母に渡していたお金を計算すると、かなりの金額になることが発覚。私たちは義母にその用途を問いただしました。
「実はね、いい先生のところに通っているの」
「数年後には億万長者になれるのよ!」
どうやら義母は、投資セミナーのようなものに通い、多額のお金を支払っていたようでした。将来大きな利益が出ると説明を受けていたようですが、内容は不透明で、私にとってはリスクの高いものにしか思えませんでした。義父との喧嘩も、このことが原因だったようです。
「家計は俺が預かる」と言って、私には生活費しか渡してくれなかった夫。しかし義母にどれだけお金の無心をされていたか、家にどれくらいのお金が残っているのかを把握していなかったのです。
ショックを受けながらも夫は、義母に帰るように言いました。そして義母が帰ったあと、私に頭を下げたのです。
「母さんがごめん。今からやり直したい」
しかし、そのときの私はすでに夫に気持ちが残っていませんでした。問題の本質から目を背け、「俺が稼いだ金だから」と相談もせず一方的に決定を押しつけてきた夫と、これからも生活をともにしたいとは思えなかったのです。
結局、私は離婚の意思を伝えました。
今回の出来事で痛感したのは、お金の問題や家族との距離感は、曖昧にしてはいけないということです。どんなに小さな違和感でも、そのままにしてしまうと、取り返しのつかない結果につながることがあります。
あのとき、きちんと夫が向き合ってくれていれば――そう思うこともありますが、今ではあの選択は間違っていなかったと感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。