突然告げられた通告
私は両親を支えるため、長年実家で暮らしてきました。実家の光熱費や通信費、家の修繕費など、毎月20万円ほどの支払いを私が負担しながら、営業職として働き、現在は部長職を任されています。
そんなある日。家族で食事を終え、片付けをしていたところ、弟のA男と妻のB美さんがやってきました。
するとその場にいた父が、「おおA男、来たか」と弟に言った後、私に向かってこう言いました。
「実は来月からA男夫婦がうちに住むことになった。だからお前はこの家を出ていってくれ」
さらにA男は、ため息まじりに続けました。
「父さん母さんも、ずっと気をつかってたんだよ」
「正直、兄さんは昔から要領悪いんだよ」
母も横で、「A男は昔からしっかりしてたからねぇ……」と、弟に同調するようにうなずいていました。
私は驚きながらも、「……わかりました」と答えました。ただ、一つだけ確認しておきたいことがありました。
「それなら出ていくけど、もう月20万の援助もやめるよ……いいんですね?」
すると両親は顔を見合わせ、「何を言ってるんだ? それはずっとA男が出してくれてたんだろ?」と不思議そうに言ったのです。
見えていなかった本当の姿
私は静かに説明しました。
「毎月の支払いは、僕の収入から出していました。A男じゃありません」
両親は信じられないという表情を浮かべていました。どうやらA男は、私が負担していた実家まわりの支払いについて、自分が援助しているかのように話していたようなのです。両親もそれを疑わず、「優秀な弟が兄を支えている」と思い込んでいました。
たしかに私は、学生時代から弟のように目立つタイプではありませんでした。ですが、営業職として地道に経験を積み、少しずつ成果を重ねてきました。「派手さはなくても、評価してくれる人はいますから」と私は伝え、その場を後にしました。
一方で、A男の妻であるB美さんは、そのやりとりを見て強い違和感を抱いていたようでした。これまで聞いていた家族像と、実際の状況が大きく違っていたからです。
空気を変えたひと言
実家を出る直前。それまで黙っていたB美さんが静かに口を開いたのです。
「お義兄さんって……ずっと怒鳴ったり言い返したりせずに、ご両親のことを支えてきたんですよね?」
部屋が静まり返りました。B美さんは続けます。
「生活費のことも初めて知りました。正直、私はA男さんからお義兄さんは実家にほとんどお金を入れていないって聞いていたので……」
A男は慌てて、「いや、それは……」と言葉を濁します。するとB美さんは、「でも実際は違ったんですよね。お義兄さんは、責められても言い返さずに、ずっと家族を支えていたんですね」と、はっきり言ったのです。
その瞬間、両親もようやく、自分たちが表面的な印象だけで兄弟を比べ続けていたことに気付き始めたようでした。父は言葉を失い、母は気まずそうに目を伏せていました。
まとめ
今回の出来事を通して、私はずっと「家族だから」と、自分の気持ちを後回しにしてきたのだと気付きました。
誤解されても言い返さず、比べられても我慢していれば、いつか伝わると思っていたのです。ですが実際には、黙って耐えているだけでは、伝わらないこともあったのです。
そんな中で救いだったのは、B美さんが感情ではなく、私がしてきたおこないをきちんと見てくれていたことです。誰かを肩書きや印象だけで判断するのではなく、その人自身をちゃんと見ようとすること。それが本当の信頼につながるのだと、今回改めて感じました。
今は実家を離れ、自分の生活を大切にしながら働いています。以前のように、「家族だから」とひとりで抱え込むことも減りました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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