義父が招いた善意の行方

今から30年以上前、義母が経験した出来事です。友人夫婦の奥さまに対する義父の善意がきっかけで、思いも寄らない形で家庭の空気が変わっていきました。最初は誰も悪気がなかったはずなのに、義母の胸には説明のつかない違和感が残ったそうです。
義父が60代に入ったころ、長く親しくしていた友人夫婦のご主人が亡くなりました。義父は残された奥さまを気の毒に思い、何かと気にかけるようになったそうです。最初のうちは義母も見守っていましたが、次第に義父がその家を訪ねる機会が増えていったといいます。
当時、義両親の娘は結婚を控えていました。その相談をしようと、義母が義父を探して友人の奥さまの家を訪ねたところ、そこで目にしたのは、まるで自宅にいるかのようにくつろいで居間で寝ていた義父の姿でした。義母は浮気を疑い、その光景を前にしばらく動けなかったといいます。
その後、義母は義父を責めることなく静かに受け止めていましたが、夫婦の会話は少なくなっていったそうです。年月が過ぎ、義父は70歳を過ぎて脳梗塞で倒れました。そのとき、義母の胸には、長い年月の中で抑えてきた感情が静かに広がっていったように思います。結果的に熟年離婚だけは避けられましたが、義母の気持ちは決して穏やかなものではなかったようでした。
◇◇◇◇◇
義母は、心の奥に残る複雑な思いを最後まで言葉にすることはありませんでした。怒りでも悲しみでもなく、ただ静かに受け止めていたのだと思います。義母の話を聞き、誰も悪気がなかったはずの「善意」が、長い年月をかけて夫婦の形を変えてしまったことに、言葉にし難いやりきれなさを覚えました。人の心の機微は、善意や正しさだけでは測れないということを深く考えさせられた出来事です。
著者:明野つきこ/60代女性・主婦
イラスト:ほや助
ネットワークビジネスにハマる実母

私の実母は、60代半ば。「高齢者」と呼ばれる年齢に差しかかり、将来子ども(私)に迷惑をかけまいと健康に気を付けるようになりました。母は、足に持病を抱えているため、よろよろ歩くこともしばしば。ここ数年は、立ち上がるだけで「いたたた……」と足を痛がっていました。
ところが最近、母が元気になっていく様子がうかがえます。足を痛がらずに歩けるようになったばかりか、表情も明るく若々しくなりました。
元気になったワケは、どうやらある会社のサプリや健康茶を飲み始めたからのよう。「前は歩くのがしんどかったけど、サプリを飲むようになってから全然つらくないんだよ」と、母はうれしそうに語っていました。
サプリに心酔!私にも熱心にすすめる母
最初は「母が元気になってよかったな」と思っていたのですが……次第に、サプリを私にまですすめるように。頼んでもいないのに、わが家にサプリや健康茶をどっさり持ってきます。しかし、サプリにまったく興味がない私は、飲む気になりません。そんな私をよそに「いらないよ」と何度断っても、母は「いいからいいから」と無理やり押しつけてくるのです。
気になってサプリについて調べると、驚くぐらい高額! しかも、販売元のホームページを見てみると“ 誰かを紹介すれば会員ランクが上がる” “ ランクが上がれば直接サプリを販売できるようになる” といった文言が並んでいます。明記はされていないものの、いわゆるネットワークビジネスをしていることがわかり、嫌な予感が……。
そうこうしているうちに、母から「サプリを安く買うのに必要だから、口座番号教えて」と言われました。なんでも、まだ会員でない人の名義の口座を登録すると、その口座にサプリを購入したお金の一部がキャッシュバックされるのだとか。
私は、簡単に口座番号を教えてくれると思っている母にあきれ、開いた口がふさがりません。「私はサプリを買う気はないし、そもそも第三者に口座番号を教えたくないよ」ときっぱり断りました。母は、納得できない様子でしたが、その日はしぶしぶ引き下がりました。
数日後、今度は「あなたの名前でサプリ会社の会員登録しておいたから」と母。キャッシュバックが入る口座の登録は諦めたようですが、私の氏名・住所・携帯番号を無断で使って会員登録してしまったのです。さすがに我慢の限界! 「勝手に個人情報を使って会員登録しないで! 迷惑だから! 」と強く忠告しました。
ハッキリと「迷惑だ」ということを伝え、ようやく受け止めてくれた母。謝罪の言葉をもらい、私の会員登録も母自身に解除させました。母が考えを改めて行動してくれたので、私のヒートアップした気持ちも一段落です。
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この一件以来、母とは少し距離を置くことに。ただ、私以外の周りの人にも同じようなことをしでかすのでは……と心配なので、問題を起こしていないか定期的には確認しようと思っています。たしかに、サプリは良いものかもしれません。母が元気になったのも事実です。しかし、いくら良いものであっても、誰でも興味を持つとは限りません。私自身も人に何かをすすめるときは、ゴリ押しにならないよう気を付けようと思いました。
また、いくら親子とはいえときにはハッキリと自分の考えを伝えることも必要だなと痛感しています。
著者:中村ひとか/30代女性・夫、息子、娘の4人家族。元気すぎる子どもたちに手を焼きながら、仕事と育児の両立に奮闘中。たまったストレスは、家族が寝静まったあとのお酒と動画鑑賞で解消している。
まとめ
変わってしまった親の姿を目の当たりにして、冷静でいるのは難しいことです。ただ高齢の親の行動を変えるのは、たとえそれが本人のためであっても、容易なことではないでしょう。受け入れがたい事柄には毅然と対応しながらも、最後は「見守る」という忍耐が求められるのかもしれません。
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