実母が助産師だったこともあり、私は里帰り出産を選びました。
夫も「安心して産んできて。こっちは任せて」と笑顔で言って、快く送り出してくれていたのです。
その後、私は無事に男の子を出産。産後1カ月ほど実家で過ごし、ようやく息子を連れて自宅へ戻った日のことでした。
突然始まった義家族との同居生活
帰宅して荷物を片付けていると、玄関が急に騒がしくなりました。何事かと思って見に行くと、大きな荷物を抱えた義両親と義妹が立っていたのです。
状況が理解できず、その場で固まってしまった私。夫は当然のようにこう言いました。
「実家をリフォームすることになったから、その間うちで暮らしてもらうことにしたんだ」
私は耳を疑いました。そんな話は一度も聞いていなかったからです。
「え? 私、何も聞いてないんだけど……」
そう言うと、夫は軽い口調で続けました。
「産後は人手が多いほうが助かるだろ? それにもう決まったことだし」
私が里帰りしている間に、夫と義家族だけで話を進めていたそう。相談も説明もなく、産後間もない私が戻るタイミングで、突然同居が始まってしまったのです。
手伝うどころか負担増…
同居生活が始まってから、私の負担は一気に増加。義両親も義妹も家事や育児を積極的に手伝ってくれるわけではありませんでした。むしろ食事の準備や後片付け、洗濯など、やることは増える一方……。
夜中の授乳で寝不足の中、朝から大人数分の家事をこなさなければなりません。
息子が泣けば、「泣いてるよ」と声をかけられるだけ。食事の時間になれば、「ごはんまだ?」と催促が。
初めての育児だけでも精いっぱいの私。自宅なのに気を使い続けなければならない生活が続き、心も体も限界に近づいていました。
気持ちが一気に冷めた一言
そんなある日、夫が何気ない様子で言いました。
「親父たち、リフォーム費用が足りないみたいなんだよね」
私はそうなんだ、とうなずきました。ところが、夫はとんでもない言葉を続けたのです。
「だから、うちの貯金から300万円くらい援助しようと思う」
私は思わず聞き返しました。
「うちの貯金って、私たち家族のためのお金だよね?」
悪びれる様子もなく、「家族なんだから助け合うのは当然だろ」と言った夫。
その瞬間、私の中で何かがプツリと切れた気がしました。
同居も相談なし。産後の私への配慮もなし。そして今度は、夫婦で築いた貯金を勝手に使おうとしている――。
私は静かに言いました。
「あなたのお金だけで援助するなら止めない」
「でも夫婦のお金を私の了承もなく使うのは違うと思う」
夫は不満そうな顔をしましたが、私はさらに続けます。
「逆の立場だったらどう思う?」
「私が勝手に実家へ300万円渡すって言ったら納得する?」
夫はうつむき、何も答えません。
「私はもう限界」
「これ以上私や息子のことより、そちらの家族を優先するなら、一緒に暮らしていけない」
そう告げて、私は息子を連れて実家へ戻りました。
夫の気づき
その日の夜から、夫は何度も連絡をしてきました。最初は言い訳ばかりでしたが、私が応じなかったことでようやく事態の深刻さを理解したようです。
翌日、夫は私の実家までやってきました。そして深く頭を下げて、こう言ったのです。
「本当にごめん」
夫は義両親と話し合い、同居を解消し、リフォーム代の援助もやめることにしたそう。
私がどれほど追い詰められていたのか、初めて理解したと言っていました。
すぐに許せたわけではありません。それでも、自分の非を認めて行動した誠意は受け止めたいと思いました。
その後、夫と何度も話し合った末に、私は息子を連れて家へ戻ることに。ただし、1つだけ夫と約束を交わしたうえで。
「次に同じことがあったら、そのときは本当に離婚も考える」
振り返れば、夫はもともとやさしい人でした。ただ、そのやさしさが義家族に向いてしまったことで、私と息子への配慮を欠いていたのだと思います。
あの出来事をきっかけに、夫は少しずつ変わっていきました。
今では育児にも積極的に関わり、息子との時間を大切にしています。もちろん意見がぶつかることもありますが、お互いの気持ちを確認しながら話し合うようになりました。
夫婦にとって大切なのは、「家族だからわかってくれる」と思い込むことではなく、きちんと言葉にして伝え合うことなのだとようやく実感しています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。