そんな夫が、ある日突然倒れてしまいました。診断の結果、告げられたのは重い病気。治すためには保険適用外の治療が必要で、高額な費用がかかるとわかりましたが、夫には頼れる親族がおらず、私たちにも十分な貯金はありませんでした。
それでも私は、「お金がないから治療を諦める」そんな結末だけは、どうしても受け入れられませんでした。
高額な治療費と、苦しい決断
途方に暮れていた私に手を差し伸べてくれたのが、学生時代からの友人・Tさんでした。Tさんは「足りない分は僕が用意する」と言ってくれました。けれど同時に、昔から私に好意を寄せていたことも打ち明けられたのです。
「ただし、彼と離れる覚悟があるならの話だよ。そのときは、僕と一緒に生きてほしい」
私は夫を愛しているし、そばで支えたい……。でも、このままでは治療費を用意できない。夫に本当のことを話せば、きっと治療を拒むはずです。悩んだ末、私は夫の命を救うため、あえて嫌われる道を選びました。
夫の病気を治すために私ができること
病室で、夫は弱々しく笑いながら言いました。「病気のこと、ごめんな……」本当は抱きしめて「一緒に頑張ろう」と言いたかったのですが、私はあえて冷たく告げました。
「私、闘病を支えるなんて無理。それなら離婚して」
夫は驚きながらも、「そうだよな。俺と一緒にいたら苦労ばかりかけるもんな……」と、静かに受け入れました。「幸せになってね、絶対に」と夫。これ以上涙を我慢できなかった私は「治療費はあなたの保険と、私が用意したお金で何とかなると思う。これは、離婚する私にできる最後のことだから」と伝え、そそくさと病室を出ました。
本当は、そのお金の多くはTさんの援助でした。けれど、それを知れば夫は治療を拒む。そう思い、私は最後まで真実を隠したのです。その後、必要な手続きを済ませ、私たちは正式に離婚しました。そして私はTさんと再婚し、夫は治療に専念することになりました。
3年後、元夫が返しに来たもの
それから3年。Tさんとの生活に不便はないけれど、夫を忘れられない私は幸せな気持ちになることもありませんでした。そんなある日、元気になった元夫が、Tさんと私が暮らす家を訪ねてきたのです。
元夫は治療後、お金の流れを調べる中で、私が置いていったはずのお金の多くがTさんからの援助だったことに気づいたそうです。そして、Tさんの前に封筒を置き、深く頭を下げました。
「本当にありがとうございました。時間はかかりましたが、借りたお金を返しに来ました」さらに元夫は、私を見て言いました。
「俺を捨てたんじゃなかったんだな。俺を生かすために、ひとりで全部背負ってくれていたんだな」その言葉を聞いた瞬間、私は涙が止まりませんでした。
夫婦として再出発
元夫は、Tさんに向き直り、もう一度深く頭を下げました。「勝手なことを言っているのはわかっています。でも、もう一度、彼女と向き合う機会をください」Tさんはしばらく黙っていましたが、やがて穏やかに笑いました。
「何年一緒にいても、彼女の心の中にはずっと君がいた。君のその行動力と愛情を見せられたら、僕の負けを認めるしかないよ」そして、「2人で幸せになりなよ」と私たちの背中を押してくれたのです。
現在は、最愛の夫と復縁し、彼の活動を手伝いながら穏やかな毎日を送っています。もちろん、私たちが今こうして一緒にいられるのは、Tさんのおかげです。この恩を、私たちは一生忘れることはありません。
つらい人生を歩んできても、人にやさしくすることをやめなかった夫。そのやさしさが、巡り巡って夫自身の命を救い、私たちの未来もつないでくれたのだと思います。
◇ ◇ ◇
困っている人がいれば、自然と手を差し伸べる。言葉にするとシンプルですが、見返りを求めずにそれができる人は、案外少ないものです。誰かを思って動いた優しさは、思わぬ形で自分や大切な人の未来を支えてくれることがあります。
しかし、人にやさしくすることと同じくらい、自分が苦しいときに「助けて」と言えることも必要です。大切な人を守りたいあまり、ひとりで抱え込んでしまうこともありますが、ときには素直に本音を打ち明け、家族で寄り添いながら支え合うことも大切かもしれませんね。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。