出産前は、何かあれば隣県に住む実家の両親に手伝ってもらおうと考えていました。
ところが産後間もないころ、父が自宅で転倒して腰を痛めてしまったのです。母は父の介助に付きっきりになり、とても育児の手伝いを頼める状況ではありませんでした。
一方、義実家は車で1時間ほどの距離にありました。ただ、義母はもともと感情表現が少なく、必要以上に干渉しないタイプです。悪い人ではないとわかっていましたが、親しく何でも相談できる関係ではなく、育児のサポートをお願いする勇気はありませんでした。
夫は仕事を理由に育児をほとんど手伝ってくれません。夜泣き対応も授乳後の寝かしつけも私ひとり。双子が同時に泣けばパニックになりそうで、毎日をこなすだけで精いっぱいでした。
突然やってきた義母
その日も、夜明け前から双子が交互に泣き続けていました。
ようやく落ち着き、急いで洗濯物を干そうとしていたときです。突然インターホンが鳴りました。
モニターに映っていたのは義母。事前連絡はありませんでした。
驚きながらも玄関を開けると、義母はいつもの無表情のまま家の中へ……。部屋の中には、これから干そうとしていた洗濯物の山や洗い終わっていない食器、双子をあやすために出しっぱなしになっていたおもちゃが散乱しています。
義母は部屋を見渡すと、静かにこう言いました。
「本当に役立たずね」
その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられました。自分でも部屋が片付いていないことはわかっていました。それでも頑張っていたつもりだったのです。
張り詰めていた糸が切れたように涙があふれ、私はその場で泣き崩れてしまいました。
義母の真意
ところが義母は、私を責め続けることはしませんでした。泣いている私を横目に、双子をおんぶひもやスリングであやし始めたのです。さらに哺乳びんの消毒やミルク作り、洗濯物干し、簡単な掃除まで次々とこなしていきました。
私は呆然とその様子を見ていました。
そして、ひと通り作業を終えると、義母は私にこう言ったのです。
「今は体を休めることが一番。少し寝なさい」
言われるままソファに横になると、私はそのまま眠ってしまいました。
気が付いたときには夕方になっていたのです。慌てて起き上がり謝ると、義母は短くこう返しました。
「気にしなくていいわ」
その直後、夫が帰宅。夫は義母の姿を見るなり驚きました。そして私に向かって不機嫌そうに言ったのです。
「母さんに手伝わせたの?」
「自分の役目を放り出して、母さんに頼るなよ!」
あまりの言葉に言い返そうとした瞬間――先に声を上げたのは義母でした。
「何を言ってるの!」
義母は、先ほどまでの落ち着いた様子から一変し、夫を厳しく叱りつけました。
育児は母親だけの仕事ではないこと。授乳以外は父親にもできることがたくさんあること。そして、仕事を理由に何もしない夫こそ無責任だということ。
私は初めて見る義母の姿に驚きました。さらに義母は私のほうを向いてこう言ってくれたのです。
「さっきの『役立たず』はあなたに言ったんじゃない。息子のことよ」
そして深々と頭を下げました。
「こんな息子に育ててしまってごめんなさい」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にたまっていたものが少しだけ軽くなった気がしました。
義母の厳しい指導
その日から義母はほぼ毎日のようにわが家へ来るように。
目的は私の手伝いではありません。夫の再教育です。
おむつ替え、ミルク作り、寝かしつけ、洗濯、掃除、買い物。義母は一つひとつ夫に教え込みました。夫が弱音を吐いても容赦はありません。
双子が寝ている間、私も休んでいると思っていたらしい夫。実際には家事や次の授乳準備に追われていることを、初めて知ったようでした。育児がどれほど大変なのか、ようやく身をもって理解してくれたのです。
それから1カ月後。夫は見違えるほど変わっていました。子どもたちのお世話はもちろん、家事も自分から動くようになったのです。私が安心して数時間まとめて眠っていられるほど、任せられるようになりました。
そんな夫の姿を見て、義母は「これなら大丈夫ね」と満足そうに言いました。そして私に向かって、「今まで嫌な思いをさせてごめんなさい」と頭を下げてくれました。
私は義母に感謝の気持ちを伝え、これからは夫婦で協力して子育てをしていくことを約束しました。
帰り際、義母は「お友だちとお茶に行くから」と言って帰っていきました。本当に予定があったのかはわかりません。もし夫が成長していなければ、きっとまだ厳しい指導が続いていたのだろうと思います。
今では、言葉数が少なく不器用なだけで、義母が誰よりも家族のことを考えてくれているのだとわかります。そして夫も少しずつですが変わり続けています。
双子育児は今でも大変ですが、ひとりで抱え込む苦しさはなくなりました。これからも夫と力を合わせながら、子どもたちの成長を見守っていきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
産後の育児は、想像以上に心身への負担が大きいものです。だからこそ、母親ひとりが抱え込むのではなく、家族全員で支え合うことが大切なのだと感じさせられるエピソードでした。
今回登場した義母はやさしい言葉をかけるタイプではありませんでしたが、行動で家族を支え、息子にも真正面から向き合いました。その姿勢が夫婦関係を変え、家族の絆を深めるきっかけになったのでしょう。
育児に正解はありませんが、ひとりで頑張りすぎず周囲の力を借りることも大切です。少しずつ成長していく夫とともに、これからも家族みんなで支え合っていけるといいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。