父がつないでくれた思いがけない縁
ある日のこと。私はパート帰りに実家へ立ち寄りました。すると、父のもとに来客が来ていました。訪れていたのはB山さんという男性と、その娘のA子さんです。
聞けば、B山さんは散歩中に体調を崩した際、偶然通りかかった父に助けられたそうで、そのお礼に来てくださったのでした。話をしているうちに、B山さんが地元でも有名な企業の経営者だと知り驚きました。しかし、それ以上に驚いたことがあったのです。なんとA子さんが、私の息子の交際相手だったのでした。
思いがけない偶然に、その場にいた全員が驚きながらも笑顔になりました。A子さんは礼儀正しく穏やかな女性で、私は「こんなすてきな方がお嫁さんになってくれたらうれしいな」と感じていました。
そして後日、両家の顔合わせの日程も決まり、私はその日を楽しみにしていたのです。
顔合わせの日に告げられた言葉
ところが顔合わせ当日の朝、思いも寄らないことが起きました。夫が突然、「今日はお前は来なくていい。俺だけで行く」と言い出したのです。
私は驚いて理由を尋ねました。すると夫はため息をつきながら、「立派な会社を経営している家なんだぞ。低学歴のお前とは話が合わないだろ」と言ったのです。
私は言葉を失いました。すると息子まで、
「母さん、悪く思わないで」
「今回は父さんだけでいいと思うんだ」
と言ったのです。その瞬間、胸が締め付けられるような思いでした。息子は小さいころから一生懸命育ててきた存在です。その息子が、私の学歴や職業を理由に参加を遠慮してほしいと言ったのです。
納得はできませんでしたが、その場で揉めて顔合わせを台無しにしたくはありませんでした。私はひとり家に残ることにしたのです。
本当に見られていたもの
顔合わせ開始の時間を迎えてしばらくたったころ、私の携帯電話が鳴りました。相手は見知らぬ番号でした。電話に出ると、「突然のお電話で失礼します。A子の父のB山です」という落ち着いた声が聞こえてきました。
B山さんは、以前父を助けたお礼でお会いしたこともあり、私のことを気にかけてくださったようでした。顔合わせの場に私がいないことを不思議に思い、連絡先を確認したうえで、連絡をくださったのです。
私は驚きました。B山さんは「今日はお母さまもいらっしゃると思っていたのですが、何かご事情がおありなのでしょうか?」と尋ねました。
私は返答に迷いました。ですが、このままごまかしても仕方がないと思い、正直に話すことにしたのです。
「実は、夫と息子から今回は来なくていいと言われまして……」
電話の向こうが静まり返りました。しばらくして、「差し支えなければ、理由を伺ってもよろしいでしょうか」とB山さんが静かに尋ねました。
私は迷いましたが、夫が話した内容をそのまま伝えました。
「相手は大企業の社長一家だから、パート勤めで高学歴でもない私が行っても話が合わないだろうと……」
するとB山さんは、「そうでしたか……」とだけ答えました。怒るわけでもなく、責めるわけでもありません。ただ、その声色からは失望のようなものが感じられました。
その後、顔合わせは予定どおり進んだものの、どこか重い空気が残ったまま終わったそうです。
それぞれが向き合った結果
そして数週間後。息子から、「A子さんとの婚約が解消になった」と告げられたのです。驚いて理由を尋ねると、息子は少しうつむきながら話しました。顔合わせの後、A子さんと2人で何度も話し合ったそうです。その際、「どうしてお母さんを顔合わせから外そうと思ったの?」と聞かれ、息子は正直に事情を説明したのだとか。
するとA子さんは、「学歴や職業だけで人を判断する考え方は受け入れられない。そういう価値観の人とは結婚できない」と話したそうです。そして十分に話し合った末に、婚約解消という結論になったのでした。
息子は、私に頭を下げながらこう言いました。
「母さん、ごめん。父さんの言うことが正しいと思い込んでいた。でも、本当に間違っていたのは俺のほうだった」
「母さんは働きながら家族を支えてくれていたのに、失礼なことを言ってしまった」
私はすぐに言葉を返すことができませんでした。それでも、息子なりに自分の過ちと向き合おうとしていることは伝わってきました。
一方で夫は最後まで、「そんな大げさな話じゃないだろ」と自分の考えを改めようとはしませんでした。その姿を見て、私は初めて気付いたのです。長年私を傷つけてきたのは、学歴そのものではなく、人を肩書きで判断する夫の価値観だったのだと。
その後、私は夫と距離を置くため、家を出ることにしました。息子も「父さんとはしばらく一緒に暮らせない」と言い、私と2人で新しい生活を始めることになったのです。決してラクな決断ではありませんでしたが、不思議と気持ちは晴れていました。
私は高校へ進学することはできませんでした。それでも働き続け、家族を支え、自分なりに精いっぱい生きてきました。そんな人生を恥じる必要はなかったのです。これからは誰かの価値観に振り回されることなく、自分自身を大切にしながら生きていきたいと思っています。
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学歴や職業だけで人の価値を判断してしまうことの危うさを考えさせられるエピソードでした。主人公は進学を諦めざるを得ない環境の中でも懸命に働き、家族を支えてきました。
印象的だったのは、主人公が怒りや恨みにとらわれるのではなく、「自分の人生を否定する必要はない」と気付いたこと。人を本当に評価するべきなのは学歴や立場ではなく、その人がどのように生きてきたか――そんな大切なことを改めて感じさせてくれるお話でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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