その相談、本気で言っている?
当時の夫は連日の残業が続き、帰宅はいつも深夜でした。ただ、残業続きだと言うわりに、給与明細に反映される残業代はほとんど増えていませんでした。違和感を覚えて尋ねると、「手当がつかない仕事もある」とかわすばかりです。体を心配して転職を勧めても、今の会社で頑張るしかないと首を縦に振りませんでした。
そんなある夜、夫があらたまった様子で言いました。
「ちょっと相談があるんだけど……母さんのことで」
義母は足腰が弱くなり、一人では生活が難しくなってきたと夫は言います。義父の遺産もすでに使い切っており、新たな住まいを確保できる状況でもないとのことでした。
私は義母に、結婚当初から、料理の味つけに文句を言われたり、掃除の仕方を細かく責められたり、子育ての考え方にも口を挟まれたりして、何度も傷ついてきました。同居は到底受け入れられません。
断ると、「それなら仕送りだけでも」と夫は言いました。今思えば、最初から仕送りを頼めば私が警戒すると考え、あえて同居という大きな話を出したのだと思います。私が同居を避けたがることを、夫はよくわかっていたのでしょう。実際、同居に気乗りはしませんでしたが、同居を回避できるならと渋々了承しました。ただ、仕送りの管理については夫から条件がありました。
「母さんは気を使うタイプだから、俺の口座から直接送る。生活費として毎月5万円を俺に渡してくれればいい」というものです。義母とは関わりたくないという私の気持ちも正直あり、夫任せにしてしまいました。また夫は、「母さんもお前に直接連絡はしにくいと思う。窓口は俺に任せてほしい」とも言っていました。それ以来、義母から私への連絡は途絶えたままで、私もあえて確認しませんでした。
同居の代わりに仕送りをしているはずなのに!?
それから半年ほど経ったある日、しおらしい声で義母から電話がかかってきました。
「昔は私もきつく言いすぎたかもしれないわね……」
歯切れの悪い謝罪のあとに、義母は「1つだけお願いがある」と続けます。
「同居の話、考えてもらえないかしら?」
過去のことを水に流せるほど関係は修復されていません。
「仕送りを5万円させてもらっているので、それで勘弁していただけないでしょうか」
すると義母の声のトーンが変わりました。
「仕送り? もらってないわよ?」
一瞬、義母がとぼけているのだと思いました。しかし、話を続けるうちに異変に気づきます。義母によれば、同居の話も今回が初めてで、これまで一度も夫から打診されたことはないというのです。
つまり、半年前の相談自体が夫の作り話だった可能性が出てきました。
悪質すぎる夫の裏工作が判明!
電話を切り、まず手元の家計用通帳を確認しました。毎月夫に渡していた5万円が振り込まれているはずの先を調べると、記載されていた振込先名は消費者金融会社とわかる略称でした。義母の名前は、どこにもありませんでした。
郵便受けに届いた封筒の差出人名に、通帳に記載されていた略称と同じ社名がありました。差出先は夫宛てです。私は開封はせず、その場で夫に確認することに。さらに夫が帰宅した際、床に落ちていたレシートを拾い上げると、女性が接客する飲食店と思われる店名と、まとまった金額が記載されていました。同様の支払いがカードの利用明細にも繰り返し残っており、「残業」と聞いていた日付と一致するものも複数ありました。
私は話し合いの前に、スマートフォンの録音機能を起動しました。後から「言っていない」と言われないよう、記録を残しておく必要があると判断したためです。
夫を問い詰めると、最初は「会社の立て替えだ」「カードの支払いが重なっただけ」と言い逃れしました。しかし通帳の出金履歴、カード明細、そして消費者金融会社から夫宛てに届いていた未開封の封筒を順番に示すと、夫は言い訳を続けられなくなりました。
最終的に夫が認めたのは、次の事実です。
義母への仕送りという名目で私から受け取ったお金を、消費者金融への借金の返済に充てていたこと。通い続けていた女性が接客する店で、特定の女性を何度も指名し、店外で食事をしたこともあり、その費用のために借金を重ねていたこと。残業だと言っていた夜の多くは、その店に行っていたということ。
この会話はすべて録音していました。
夫の体を心配し、転職まで勧めていた自分がむなしくなりました。それ以上に許せなかったのは、義母との過去の経緯を利用し、私の善意を借金返済の財源にしていたことです。
私は一晩考えた末に離婚を決意しました。
夫が言い逃れできなかった理由
まず弁護士に相談し、手元の証拠を整理してもらいました。弁護士が確認したのは、家計口座の出金履歴、カード明細、消費者金融会社から夫宛てに届いていた未開封の封筒、夫の自白を録音した音声、そして義母が「仕送りを受け取っていない」と話した事実の記録です。
さらに、夫の借金は生活費ではなく、個人的な遊びや飲食のためのものだとわかりました。私が連帯保証人になっていないことも確認でき、返済義務はないとのこと。家計から流用された分については、財産分与の交渉で考慮することになりました。
弁護士は、これらの証拠を時系列で整理した書面を作成し、夫に提示しました。虚偽の仕送り名目による家計からの搾取、消費者金融への返済への流用、女性関係、義母に対する虚偽の説明、これらがすべて記録として示された形です。
夫は当初、離婚を渋りました。しかし弁護士から「このまま協議を拒否すれば、家計の使い込みの経緯をより詳細に整理した手続きに進むことになる」と伝えられると、態度が変わりました。
そのころ、夫との話し合いの中で、義母が「そんな嫁なら別れてしまえばいい」と言っていたこともわかりました。私にとっては、もう遠慮しなくていいと腹をくくる材料が一つ増えただけです。
書面と証拠を前に、夫はそれ以上強く争うことができなくなっていきました。最終的に夫は離婚に応じ、家計から流用された分の清算に加え、うその説明によって精神的苦痛を受けた点についても、解決金という形で合意しました。
離婚成立後も義母から援助を求める連絡があったため、弁護士に相談したうえで、今後は応じられない理由として、私は必要最低限の事実だけ伝えることに。義母は「あの子がそんなことをするはずがない」と繰り返しましたが、私にはもう、その言葉に応じる義務はありません。
「今後のご連絡は、弁護士を通してください」
それだけ伝えて、私は電話を切りました。
離婚後、私は新居で自分のペースを取り戻しました。あの時間を取り返すことはできませんが、真実が明らかになり、法的な手続きを経て区切りをつけられたことは、今では正しい判断だったと思っています。
その後、義母が短時間の仕事を始めたことは共通の知人から聞きました。夫が言っていたほど生活に支障がある状態だったのか、今となってはわかりません。
義母には長年にわたる嫁いびりがあり、夫には信頼を根底から裏切られました。心のどこかにしこりが残っているのは否定しません。それでも、もう誰かのうそに振り回されるつもりはありません。これからは、自分の生活を自分で守っていきます。
◇ ◇ ◇
信じていた相手に裏切られたショックは、簡単に消えるものではありません。それでも、違和感を見過ごさず、証拠を残して専門家に相談することは、自分の生活を守るための大きな助けになります。夫婦であっても、お金に関する不自然さを感じたときは、感情だけで判断せず、冷静に事実を確認することが大切なのかもしれませんね。