突然の契約終了
私はコーヒー焙煎機の設計・開発を手がける町工場の経営者です。少数精鋭の仲間たちと品質にこだわったものづくりを続けてきました。
そんなある日、長年取引のあった複数店舗を展開する人気カフェ「ABCコーヒー」の担当者から連絡が入りました。同社とは焙煎機のリースや定期メンテナンスを含む契約を結んでいましたが、更新時期を迎えたタイミングで「今後は海外製の設備を導入することになったので、契約は更新しません」と告げられたのです。
突然の知らせに驚きましたが、契約上は問題ありません。とはいえ、長年取引を続けてきた顧客を失ったことは大きな痛手でした。
その後、担当者は高級路線への転換を進め、高性能な海外製焙煎機を導入したと聞きました。私は残念な気持ちを抱えながらも、「今できることに集中しよう」と気持ちを切り替えることにしたのです。
新たな出会いが転機に
私は、社員たちとともに自社の技術やサービスを見直し始めました。そして、これから現場で本当に求められる焙煎機とはどのようなものなのかを探るため、研究を兼ねて、以前から豆の扱いにこだわる店として名前を聞いていた、個人経営のコーヒー店「M珈琲」を訪れました。
そこで出会ったのが、オーナーのC田さんでした。C田さんは世界各地から厳選した豆を仕入れ、豆ごとの個性を最大限に引き出すことに情熱を注いでいました。
コーヒーについて語り合ううちに、私たちは意気投合しました。C田さんからは、「高性能な機械でも、扱う人によって味に差が出てしまうんです。本当に必要なのは、現場で使いやすく安定して品質を出せる機械だと思います」という話を聞きました。
その言葉を聞いた瞬間、私の中で点と点がつながった気がしました。「もしよければ、現場の立場から意見をいただけませんか」と私が提案すると、C田さんも「もちろんです。私も理想の焙煎機があればうれしいですから」と、二つ返事で賛同してくれたのです。
こうして、C田さんに新たな焙煎機の評価やテスト焙煎への協力をお願いすることになりました。操作性や清掃のしやすさ、味の再現性などについて何度も意見交換をおこない、試作と検証を繰り返したのです。
現場対応で生まれた差
一方、海外製の設備を導入したABCコーヒーが出すコーヒーには、「日によって味が違うように感じる」という声が聞かれるようになりました。
後に業界関係者から聞いた話では、導入した海外製焙煎機は性能の高い機種だった一方、設定や調整が複雑で、運用には専門的な知識が必要だったそうです。また、不具合や調整が必要になった際、海外メーカーとのやりとりが必要になるケースもあり、対応に時間がかかることがあったそうです。
一方で、わが社が新たに開発した焙煎機は、現場での扱いやすさや品質の安定を重視した設計にしていました。さらに導入後も定期的に現場へ足を運び、点検や調整を丁寧におこなっていたのです。その結果、M珈琲では品質の安定感が増し、徐々に口コミで評判が広がるようになりました。
やがて、M珈琲は同業者からも「なぜ安定してこの味を出せるのか」と注目されるようになりました。C田さんは同業者から質問を受けた際、「豆や焙煎技術はもちろんですが、焙煎機の扱いやすさにも助けられています」と話してくれていました。
そのおかげで、わが社の焙煎機にも興味を持つ店舗が現れ、試験導入や相談の依頼が少しずつ増えていったのです。
まとめ
その後、ABCコーヒーからも、焙煎機の運用や現場での品質管理について相談を受ける機会がありました。私たちが提供していたのは、焙煎機という製品だけではありませんでした。現場に合わせて調整し、使う人の声を聞きながら改善を重ねることも含めて、私たちの仕事だったのだと思います。そしてその価値を、ようやく理解してもらえた気がしました。
私は今回の経験を通じて、現場の声に耳を傾け、使う人に寄り添いながら改善を重ねることこそが、本当の価値につながると改めて実感しました。
これからも仲間たちと力を合わせながら、より良い焙煎機づくりに取り組み、多くの人においしいコーヒーを届けていきたいです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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