隣に引っ越してきたのは、小さな女の子を連れたシングルマザーのAさん。実家に戻り、ご両親と同居することになったようでした。
ゴミ捨て場で見た衝撃の光景
最初に顔を合わせたのは、地域のゴミ集積所。軽くあいさつを交わしたあと、私は壊れた傘を不燃ゴミとして出しました。
そのまま息子とともに保育園に向かおうとしたそのとき、背後から、女の子の小さな声が聞こえたのです。
「ママ、やめようよ……」
気になって振り返ると、Aさんが私の捨てた傘を手に取り、使えそうかどうか確認していました。さらに、「なんだ、ブランド物かと思ったら違うじゃない」とつぶやく声まで聞こえてきたのです。
正直なところ、その時点で少し不安を覚えましたが、急いでいたためそのまま保育園へ向かったのでした。
私たちのゴミを漁る隣人
数日後、再びAさん親子と顔を合わせた私。そのとき、思わず目を疑いました。
Aさんが持っていたバッグは、以前私が処分したものによく似ていました。そして着ていたジャージは、夫が破れて捨てたものと同じだったのです。
偶然とは思えませんでした。
意を決して、「もしかして、うちのゴミを持ち帰ったりしていませんか?」と尋ねると、Aさんは不機嫌そうにこう答えたのです。
「捨てたんでしょ?」
「いらない物なんだから私がもらったっていいじゃない」
さらに、「そんなことより、冷凍食品ばかり買ってるみたいね」「ご近所に話されたくなかったら余計なこと言わないほうがいいんじゃない?」とまで言われたのです。
ゴミ袋の中身を見られていたことに、大きなショックを受けた私。それ以降、私は個人情報につながりそうなものを捨てるたびに神経を使うようになり、ゴミ出しの日が憂うつになってしまいました。
夫と考えた対策
不安から夫に相談すると、夫も深刻に受け止めてくれました。夫も、Aさんがゴミ集積所でゴミ袋を漁っている様子を何度か見かけたことがあるとのこと。しばらくは、私の代わりに夫がゴミ出しをしてくれることになりました。
そんなある日、夫は押し入れにしまってあった電子レンジを持ってきました。海外赴任していた親戚から譲り受けた新品同然のものですが、日本の家庭用コンセントでは使用できない海外仕様の製品です。
親戚からは「処分していい」と言われていましたが、なんとなく先延ばしにしていました。それを、夫はこの機会に粗大ゴミとして出そうと提案してきたのです。
そして、粗大ゴミの日――。
私と夫は正式な手続きをおこない、粗大ゴミ処理券を貼った電子レンジを集積所へ出しました。すると案の定、すぐにAさんが現れ、周囲を見回したあと、電子レンジを自宅へ運び込んでいったのです。
その日の夕方――。Aさんがわが家に怒鳴り込みに来ました。
「ちょっと! あの電子レンジ使えないじゃない!」
「重い思いをして持って帰ったのに!」
私は冷静に答えました。
「そもそも、持ち帰ってはいけないものですよね?」
私たちが暮らす自治体では、粗大ゴミなどの持ち去り行為を条例で禁止しています。そのことを伝えると、Aさんはさらに声を荒らげました。
繰り返された持ち去り行為の代償
玄関でもめていると、仕事から夫が帰ってきました。実は、私の夫は市の職員として働いています。夫がAさんに対し「私は◯◯市の職員なので、廃棄物に関する条例についても詳しいのですが……」と伝えると、彼女はサッと青ざめました。
夫は複数回に及ぶAさんの持ち去り行為を確認し、担当部署へ情報提供していたのです。
夫は淡々と、持ち去り行為が条例違反に当たる可能性があること、繰り返しおこなった場合は過料や行政指導の対象になることを説明しました。
「今回の件は、悪質だと判断される可能性が高いです」
「自治体から正式な指導が入るかもしれません」
夫の言葉を聞いて、どんどん顔色が悪くなっていったAさん。強気だった態度は消え、最後には何も言えなくなっていました。
騒動のあと、Aさんの母親がわざわざわが家を訪ねてきて謝罪してくれました。彼女は私たちのゴミを「もらった」と説明していたようで、両親は疑うことなくその言葉を信じていたそう。
結局、Aさんは実家を出されることになり、女の子は別居していた父親のもとで暮らすことになったそうです。後日人づてに、その子が新しい環境で元気に過ごしていると聞き、私は少し安心しました。
Aさんが去ってからは、ゴミ出しのたびに嫌な思いをすることがなくなりました。今では以前のように安心して暮らせています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。