念願だったマイホーム
子どものころから、実家では母のお金の問題に振り回されてきました。家賃の支払いに困ったり、親戚へ頭を下げたりする姿を何度も見てきたのです。
「大人になったら、自分はこんな生活をしない」。そう心に決めて働き続け、ようやく手に入れたのが、自分名義のマイホームでした。中古の分譲マンションでしたが、私にとっては大切な自分だけの居場所でした。
マイホームを購入してしばらくしたころ、会社から約1年間の海外赴任を命じられました。
長期間家を空けるため、防犯や郵便物の確認を頼める人が必要でした。身近に頼れる人は母しかおらず、万が一のときだけ対応してもらうつもりで、合鍵を預けたのです。
赴任から約8カ月後。担当していたプロジェクトが予定より早く終了し、私は急きょ帰国することになりました。
「久しぶりに自分の家でゆっくり眠れる」
そんなことを考えながら、自宅マンションへ向かったのですが……。
窓の向こうにいた知らない家族
マンションへ着き、自分の部屋が見える場所まで歩いてきた私は、その場で思わず立ち止まりました。全開になったリビングのカーテン越しに、見知らぬ家族らしき人たちが食卓を囲んでいる様子が見えたのです。
最初は自分の部屋の場所を間違えたのかと思いました。しかし部屋番号もベランダも見慣れた景色そのもの。間違いなく、私の部屋でした。
怖くなった私は、部屋へ入ることができませんでした。代わりに、おそるおそるインターホンを押したのです。
しばらくして玄関から出てきたのは、まったく見覚えのない男性でした。
「あの……ここ、私の家なんですが」
すると男性も驚いた表情でこう言いました。
「え?Aさんから、しばらく住んでいいと言われているんですが……」
そのAさんとは、母の名前でした。
母が勝手に知人を住まわせていた
私は慌てて母へ電話をかけました。母はいつもと変わらない口調で、「どうしたの? 何かあったの?」と尋ねてきます。私は怒りを抑えきれず、「家、どういうこと!?」と問いただしました。
母は、まだ私が海外にいると思っていたのでしょう。「急に何を言ってるの?」「大丈夫?」と戸惑うばかりです。
私は深呼吸をして、こう伝えました。
「今、帰国してマンションに着いたところ。私の部屋に知らない人が住んでるんだけど」
その瞬間、電話の向こうが静まり返りました。しばらく沈黙が続いたあと、母は焦ったような声で話し始めたのです。
実は、私が1年間家を空けるのだから問題ないだろうと考え、住む場所に困っていた知人家族へ勝手に合鍵を渡していたというのです。
あまりの身勝手さに、私は言葉を失いました。
「私の家だよ? どうしてひと言も相談してくれなかったの?」
そう問いかけても、母は「空き家にしておくより有効活用したほうがいいと思った」「帰ってくる前に出てもらえば、問題ないと思ってた」と、悪びれる様子もなく、そう言い切ったのです。
何も知らない知人家族は…
私はこれ以上母と話しても埒が明かないと思い、部屋にいた家族へ事情を説明しました。すると、ご主人は驚いた表情で深々と頭を下げました。
「お母さまから、『娘は海外赴任中で1年間帰ってこない。管理も任されているから安心して住んでいい』と言われていました。本当に申し訳ありません」
さらに、その家族は毎月決まった額のお金を母へ渡していたことも教えてくれました。どうやら母は、それを生活費の足しにしていたようです。
知人家族も、まさか部屋の持ち主本人に無断だったとは思っていなかったのでしょう。
事情を知ると、ご主人は何度も謝罪を繰り返し、「本当に申し訳ありません。できるだけ早く退去できるよう手配します」と話してくれました。
私は知人家族に怒りをぶつけることはできませんでした。悪いのは、何も知らずに住んでいたその家族ではなく、勝手に合鍵を渡し、お金まで受け取っていた母だからです。
話し合いの結果、知人家族は新しい住まいが見つかり次第退去することになりました。その間、私はホテルで生活しながら、母との問題を整理するしかありませんでした。
ホテル代や鍵の交換費用はすべて母に負担してもらい、合鍵も回収。母は知人家族から受け取っていたお金も返すことになりました。もちろん、二度と母へ合鍵を預けることはありませんでした。
あの日、自宅マンションの窓越しに見知らぬ家族が食卓を囲んでいる光景は、今でも忘れられません。家族であっても、大切な財産や鍵を預ける以上、お互いの約束や境界線を曖昧にしてはいけない――そう痛感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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