緊急事態で商談に遅刻!?
その日は、会社にとって重要な新規クライアントとの商談が予定されていました。僕は念入りに準備をし、余裕を持って約束の場所へ向かっていたのです。
ところが移動の途中、顔を真っ青にして壁にもたれかかっている女性を発見。放っておけずに「大丈夫ですか」と駆け寄り、救急車を呼ぼうとスマホを取り出しました。
その瞬間、女性が僕のほうへ倒れ込んできたのです。
僕は女性を支えようとしてバランスを崩し、そのまま転倒。女性をかばって地面についた左腕に、鋭い痛みが走りました。
病院へ搬送された結果、女性は大事には至らなかったものの、僕は左腕を骨折。すぐに商談へ向かえる状況ではなくなってしまいました。
助けた女性の正体
治療を受けていると、先ほどの女性が父親を連れて病室を訪れました。
「娘を助けていただき、本当にありがとうございます。そのうえ、あなたにケガまでさせてしまって……」
男性はそう言って深く頭を下げ、名刺を差し出しました。
そこに書かれていたのは、今日訪問する予定だった商談先の会社名。そして、男性の肩書は「代表取締役社長」だったのです。
まさかこんな偶然があるとは、と僕は思わず自分の目を疑いました。
「え……今日、商談でうかがう予定だった会社の……」
僕が驚いていると、ちょうどそのとき、直属の上司であるAさんから、立て続けに電話がかかってきました。

上司の暴言に社長が激怒
鳴り止まない着信に、「お急ぎのお電話でしょうからどうぞ」と言われ、僕は上司の電話に出て、状況を説明しました。
しかし、Aさんは僕の話を最後まで聞こうとしません。
「人助けをして商談に遅刻だと!?そんな女、放っておけばよかっただろ!」
大声で怒鳴るAさんの声は、そばにいた2人にもはっきり聞こえていました。
僕が「困っている人を見捨てることはできませんでした」と伝えると、Aさんはさらに声を荒らげました。
「言い訳するな!社長を怒らせてクビになっても知らんぞ!腕が折れていようと、商談へ向かうのが営業だろ!」
その言葉を聞いた社長の表情が、一変しました。
社長は「お電話を代わっていただいてもいいですか」と僕からスマホを受け取り、静かな声で告げました。
「お電話代わりました。〇〇株式会社、代表取締役の〇〇です。“放っておけばよかった女”は、私の娘ですが」
電話の向こうで、Aさんが息をのむのがわかりました。
「娘を助けてくれた方に対して、ずいぶんな言い方ですね。御社内のこととはいえ、部下を脅すような発言は看過できませんよ」
Aさんは慌てて謝罪を始めましたが、社長は「詳しいお話は、改めて御社の社長へ確認します」とだけ言って電話を切りました。
信用を失った上司
後日、社長から僕の会社へ、Aさんの暴言について正式な連絡が入りました。
社内調査の結果、Aさんが以前から部下に威圧的な言動を繰り返していたことも判明。Aさんは役職を外され、営業の現場から離れることになりました。
もちろん、僕がクビになることはありませんでした。
商談もあらためて行われ、提案内容を評価してもらったことで、無事に契約が成立。僕は新しい担当者として、そのプロジェクトを任されました。
目の前で困っている人を助けた僕の選択は、決して間違っていなかったのだと、心からスカッとした出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。