突然の契約見送り
ある日、取引を進めていた会社から「今回の契約は見送らせてほしい」と連絡が入りました。
相手は、以前から高圧的な態度が目立っていた取引先の社長・B川さんです。理由を尋ねると、「社長自ら電話対応をしているような体制の会社には、うちの仕事は任せられない」と言われたのです。その言葉に、僕はショックを受けました。
気持ちを切り替えようと公園へ向かうと、広場でフリマが開かれていました。何となく眺めていると、見覚えのある女性がひとりで品物を並べています。
「もしかして……A子?」
思わず声をかけると、彼女は驚いた表情を浮かべたあと、「久しぶり」とほほ笑んでくれました。
公園で再会したのは
A子は、幼いころから頭の回転が速く、周囲から「天才」と呼ばれていた幼なじみです。何をやっても要領がよく、僕は昔からひそかに尊敬していました。
しかし、久しぶりに会ったA子は、どこか元気がありません。話を聞くと、前の職場ではその力をうまく生かせず、周囲との板挟みになって退職したとのこと。今は生活のため、フリマで少しずつ物を売っているのだといいます。
僕は思い切って提案しました。
「あのさ……もしよかったら、うちで働いてみない? 社内の仕事を整理して、みんなが動きやすくなるよう支えてくれる人を探していたんだ。最初はお試しでもいいから」
A子は「え、私でいいの?」と少し迷ったあと、「ありがとう。迷惑かけないように頑張る」と小さくうなずいてくれました。
社内が変わり始めて
それから数カ月後。A子が来てから、社内の空気は少しずつ変わっていきました。細かい業務を整理し、社員の得意不得意を見ながら仕事を振り分けてくれたおかげで、今まで滞っていた作業がスムーズに進むようになったのです。
A子も最初は遠慮がちでしたが、少しずつ表情が明るくなり、やがて自分から意見を出してくれるようになりました。
一方で、B川さんの会社では、強引な進め方や人手不足が重なり、社内外から不満の声が上がっていると聞きました。無理を押しつけられていた社員たちが次々と離れ、以前ほどの勢いはなくなっていったようです。
僕はその話を聞いて、A子が前の職場で自信を失ってしまった理由が、少しわかった気がしました。彼女に力がなかったわけではなく、力を発揮できる場所にいなかっただけなのです。
しばらくして、A子は正式にうちの会社で働くことを決めてくれました。A子が「ここなら自分らしく働ける気がする」と言ってくれたとき、僕は心からうれしくなりました。
小さな会社だからこそ
しばらく経ち、B川さんは経営の第一線から退くことになったそうです。詳しい事情まではわかりませんが、会社を支える人たちの声に耳を傾けることは大切なのだと感じました。
一方のわが社では、少しずつ契約が増えていきました。A子が業務の流れを整えてくれたことで、一つひとつの対応に時間を割けるようになり、取引先からの信頼が高まったのだと思っています。
そんなある日、A子が「フリマで物を売っていたころは、まさかあなたと一緒に働くなんて思ってなかった」と言うので、僕は笑って「持つべきものは優秀な幼なじみだね」と答えました。
するとA子は、少し照れたような表情で「最初は働かせてもらえるだけでありがたいと思ってたんだけど……最近は、あなたに会えるのがちょっと楽しみなの」と、つぶやいたのです。僕は驚きながらも、「A子と再会してから毎日が楽しくなったよ。きみのことは特別な存在だと思ってる」と答えました。
大切なのは、会社の規模ではなく、そこで働く人たちが力を発揮できる環境なのだと感じました。これからもA子や社員たちと支え合い、一つひとつの仕事に誠実に向き合っていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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