私はひとりっ子です。そのため、将来的には両親の近くで暮らし、必要になれば同居も視野に入れていました。婚約者にも以前からその話はしており、彼も納得してくれていたのです。
結婚祝いとして、父は私たちのために一軒家を用意してくれました。もちろん、その家は将来的に私の両親と暮らす可能性も考えて建てられたものです。
新居が完成したあと、私の両親と婚約者の両親を招いて、ささやかな引っ越し祝いを開きました。そのときは、これから幸せな家庭を築いていけるものだと信じていたのですが……。
婚約者の母の突然の訪問
引っ越し祝いパーティーの翌日のこと――。
婚約者の母親が突然やってきたのです。
「昨日、忘れ物をしたみたいなの」
そう言われ、特に疑うこともなく家に招き入れた私。
ところが、婚約者の母親が忘れ物を探す様子はありません。それどころか、ソファに腰掛け、テレビを見ながらくつろぎ始めたのです。
そしてしばらくすると、「あなたには今のうちに家事をしっかり覚えてもらわないとね」と、掃除や料理、家事全般について延々と話し始めました。
結局、その日は3時間以上滞在。私は違和感を覚えましたが、結婚前の大事な時期でもあり、波風を立てたくなくて我慢しました。
しかし、その翌日も、そのまた翌日も婚約者の母親はやってきたのです。
知らぬ間に進んでいた計画
さすがに耐えられなくなった私は、思い切って尋ねました。
「どうして毎日いらっしゃるんですか?」
すると婚約者の母親は悪びれる様子もなく笑いながらこう言ったのです。
「だって、今のうちに教えておかないと困るでしょう?」
「将来は同居して、この家で面倒を見てもらおうと思ってるんだから」
私は耳を疑いました。
この家は私の両親との将来的な同居を見据えて用意された家です。婚約者の両親との同居など、一度も考えたことはありません。
そのことを説明しても、「細かいこと気にしなくていいのよ」と軽く流されてしまいました。
その日の夜、私は婚約者にこれまでの出来事を話しました。
婚約者の母親が毎日来ていること。同居や介護の話をしていること。そのせいで、私が困っていること。
しかし婚約者は真剣に取り合ってくれず、「母さんも悪気があるわけじゃないし、うまく付き合ってよ」と言っただけ。そして逃げるように寝室に向かってしまったのです。
私は大きな不安を覚えました。本当にこの人と結婚して大丈夫なのだろうか――そんな思いが頭を離れませんでした。
偶然聞いてしまった会話
翌日も家にやってきた婚約者の母親。私は顔を合わせたくなくて、用事があるふりをして、貴重品だけを持って外出しました。
しばらくして家に戻ろうとすると、開いていた窓から婚約者の母親の話し声が聞こえてきました。どうやら誰かと電話をしている様子。聞くつもりはありませんでしたが、思わず足が止まりました。
「順調よ、このまま結婚できれば安心ね」
「あなたも本当に上手にやってるわ」
「2社を合併して、あなたが社長になるのよ!」
話の内容からして、電話の相手は私の婚約者でした。
さらに会話を聞くうちに、婚約者の母親が私の実家の資産や父の会社を乗っ取ろうとしていること、婚約者もそれを理解したうえで結婚の話を進めていたことがわかったのです。
婚約者とその母親が、私の実家の環境や将来的な利益を期待していたことを知り、大きなショックを受けた私。と同時に、結婚はできないと確信しました。
婚約破棄を告げた日
翌日――。
婚約者の母親がいつものように家に来ているところへ、婚約者も帰宅。特に驚く様子もなく、「まぁ、ゆっくりしていきなよ」などと声をかけていました。
私はリビングに2人がそろったところで、「話があります」と切り出しました。
「婚約を解消させていただきます」
そう言って、テーブルに婚約指輪を置いた私。
そして、前日に電話の内容を聞いたこと、私の両親と婚約者の父親にも相談済みであることを告げたのです。
2人は見る見る顔色を変えました。婚約者は「本当に愛しているんだ」、その母親は「会社を乗っ取ろうなんて大それたことを考えるわけがない」と口にしましたが、私の気持ちは変わりませんでした。
しばらくして、駆けつけてくれたのは婚約者の父親。私があらかじめ呼んでおいたのです。
私から改めて事情を聞いた婚約者の父親は深く頭を下げ、「本当に申し訳ない」と何度も謝罪してくれました。そして、婚約破棄に伴う手続きについても、誠実に対応すると約束してくれたのです。
その後、私たちの婚約は正式に解消。元婚約者ともその母親とも、それ以来連絡は取っていません。
幸いにも父と元婚約者の父親の関係は変わらず、会社同士の取引にも影響はありませんでした。ちなみに元婚約者の父親は、元婚約者に会社を継がせるつもりはないと父づてで聞きました。
当時は本当に傷つきましたが、結婚後ではなく婚約中に相手の本性を知ることができたのは不幸中の幸いだったと思っています。
結婚は家柄や財産のためにするものではありません。相手を利用しようと考えている人は、どこかで必ず本音や矛盾が表に出るものです。
だからこそ、肩書きや条件だけで相手を信じるのではなく、誠実に向き合ってくれる人かどうかを見極めることが大切だと感じました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。