大企業へのこだわりが生んだすれ違い
妻は、新しく引っ越してきた隣人夫婦の話をしながら、「ご主人は専門職らしいけど、うちも安定しているよね。あなたは大企業に勤めているんだし」と誇らしげに話していました。
「うちの夫は知名度の高い会社で働いていますって言ったら、驚かれたの。やっぱり大きな会社って、みんなすごいと思うんだね」
妻にとって、私の勤務先は自慢の1つだったのだと思います。たしかに、会社名だけを見れば安定しているように見えたかもしれません。
しかし当時の私は、職場での働き方に少しずつ違和感を覚えるようになっていました。
大きな会社だからこそ、組織の決定に従わなければならない場面はあります。けれど、現場の負担が一部の社員に偏っていたり、無理のあるスケジュールでも「やるしかない」と押し切られたりすることが続き、私は次第に疲弊していきました。
以前から相談に乗ってくれていた上司も、同じような悩みを抱えた末に職場を離れていました。その姿を見て、私もこのまま働き続けていいのだろうかと考えるようになったのです。
私が妻に「このまま無理を続けたら、自分の心身がもたないと思う」と伝えても、妻は「お願いだから、今の生活を壊さないで。会社に残っていれば、安定した暮らしができるんだから」と取り合いません。
私は、「もし退職することになっても、次の仕事は必ず探す。生活に困らないようにする」と説明しましたが、妻は「私はあなたが大企業に勤めているから安心して結婚したの。辞めるなんて聞いていない」と言い放ったのです。
その言葉を聞いたとき、私たちが大切にしているものは、ずいぶん違っていたのだと痛感しました。
退職後、妻との距離が広がっていく
それから数カ月後。私は、無理のある働き方や責任の偏りが続く環境に、どうしても折り合いをつけられなくなっていました。社内の相談窓口も利用しましたが、状況を変えることは難しく、最終的に会社を退職することにしました。
妻には、「本当に申し訳ない。でも、これ以上、この働き方を続けるのは難しかった」と伝えました。妻の返事は、「最悪」のひと言だけでした。
それ以降、妻は私とほとんど会話をしなくなりました。食事中に話しかけても返事はなく、転職活動の状況を説明しようとしても、「そういう話は聞きたくない」と遮られるばかりでした。
私なりに家計の見通しをまとめたり、再就職の面接予定を伝えたり、今後の生活について話し合おうとしたりしました。けれど妻は、「そんな資料を見せられても安心できない」「前の会社に残っていればよかったのに」と言うだけで、私自身の考えや苦しさに耳を傾けてはくれませんでした。
ある夜、私は改めて伝えました。
「このまま無視され続けるのはつらい。夫婦として、これからどうするのか話し合いたい」
しかし妻は、静かに「もうあなたには期待していない」とだけ言いました。
その言葉を聞いたとき、私の中で何かが切れました。妻が見ていたのは、私という人間ではなく、会社名や肩書きだったのかもしれない。そう思うと、心が限界を迎えました。
その後、私たちは別居を経て、離婚に向けて話し合うことになりました。妻も最後まで考えを変えることはなく、「次はもっと将来性のある人と結婚する」と言いました。その言葉で、私の中に残っていた迷いも消えました。
離婚後、それぞれの現実が変わった
離婚後、私はかつて世話になった元上司から声をかけられ、別の会社へ転職しました。前職とは違い、意見をきちんと聞いてもらえる環境で、無理な働き方を当然とする空気もありませんでした。
慣れない仕事に戸惑うこともありましたが、少しずつ成果を出せるようになり、待遇も前職より良くなりました。何より、胸を張って働けるようになったことが、私にとっては大きな変化でした。
元妻はその後、前職の関係者だったA山と再婚したと知人を通して聞きました。
離婚からしばらくたったころ、元妻から久しぶりに連絡がありました。その際、近況を聞かれたため、「今は別の会社で働いていて、仕事も落ち着いている。待遇も前より良くなったよ」とだけ伝えました。
すると元妻は、明らかに声の調子を変え「そうなの? 前より年収が上がったの?」と言いました。その反応を聞いて、私は少し複雑な気持ちになりました。やはり元妻が見ていたのは、私自身ではなく、肩書きや収入だったのかもしれないと思ったのです。
自分の価値を再認識して
その後しばらくして、前職では大きな組織変更があったと聞きました。詳しい内容は私にもわかりませんが、以前のように「大企業に残っていれば安心」とは言い切れない状況になったようです。
A山の働く環境も変わったらしく、元妻からの連絡も少しずつ増えていきました。最初は事務的な内容でしたが、次第に「あのとき、あなたの話をもっと聞くべきだったのかもしれない」といった言葉が混じるようになりました。
そしてある日、元妻は「今なら、ちゃんと寄り添えると思う。もう一度やり直せないかな」と連絡が来ました。けれど私は、復縁するつもりはありませんでした。
私が退職したとき、彼女が不安になった気持ちは理解できます。けれど、話し合おうとする私を無視し、肩書きを失った私には価値がないかのように扱われたことは、簡単に忘れられるものではありません。
私は「もう戻ることはできない。これからは、それぞれの人生を歩もう」とだけ伝え、必要なやりとりを終えた後、連絡を控えることにしました。
離婚はつらい決断でした。けれど、肩書きではなく私自身を見てくれる関係でなければ、どこかで無理が出てしまうのだと感じました。自分の価値を誰かの評価に預けないためにも、あの決断は必要な一歩だったのだと思っています。
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夫の退職という大きな決断を前に、今後の生活が不安になる気持ちは自然なものです。しかし、その不安を本人にぶつけるだけでなく、相手が何に悩み、何を大切にしたいのかを聞く姿勢も必要だったのかもしれません。主人公が自分の価値を肩書きに預けず、前を向こうとした姿が印象的なエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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