面接に現れたのはジャージ姿のギャル
社長に就任して数年。商品の魅力をより多くのお客さまへ届けるため、新たにマーケティング担当を募集することになりました。
求人票には「服装自由」と明記していたため、私服で来る応募者も少なくありませんでした。しかし、その日面接会場に入ってきた女性の姿を見て、僕は思わず驚きました。
金髪にジャージ姿。まるで部活動の帰りのような格好だったのです。彼女は席に着くなり、申し訳なさそうに頭を下げました。
「面接なのに、この格好ですみません。祖母のお店の手伝いをしていて、着替える時間がなくて……」
話を聞くと、彼女の祖母が営むお店は事情があって近いうちに閉店することが決まっており、この日は片付けを手伝っていたそうです。
僕は「まずは彼女の話を聞こう」と気持ちを切り替え、面接を始めました。
履歴書を見て思い出したこと
彼女の話を聞きながら履歴書に目を落とした僕は、アルバイト欄を見て思わず顔を上げました。
「もしかして、このスポーツ用品店がお祖母さまのお店ですか?」
彼女が「はい」とうなずくのを見て、僕は数年前の出来事を思い出しました。
実は数年前、僕は新商品の売れ方やお客さまの反応を知るため、取引先の店舗を回っていました。そのとき立ち寄ったのが、そのスポーツ用品店だったのです。
店内を見ていたとき、ほかのお店では見かけない工夫がされた売り場があり、思わず足を止めました。
「この売り場は、どなたが考えたんですか?」
そう尋ねると、店番をしていた高校生くらいの女の子が、少し照れながら「私です」と答えました。
僕は興味を持ち、なぜそのような並べ方にしたのかを尋ねました。すると彼女は、お客さまが商品を選ぶ様子を見ながら、自分なりに工夫したことを話してくれたのです。
その発想は、僕にはまったくなかったものでした。「なるほど、そんな考え方があるのか」と感心したことを、今でもよく覚えています。
そして、目の前にいる彼女こそ、あのときの高校生だったのです。
「採用します!」
僕は履歴書を閉じると、彼女に言いました。
「採用します」
突然の言葉に、彼女はもちろん、同席していたマーケティング部長も目を丸くしました。部長は「面接にジャージで来るような人を採用するのは早計ではないか」と反対。社会人としての常識に欠けるのではないかと、納得できない様子でした。
しかし僕は、数年前に見かけた売り場づくりを考えたのが彼女本人であることを伝えました。現場をよく見て、自分で考え、行動できる人。そんな人材をずっと探していたのです。
社会人としてのマナーは入社してから教えられます。しかし、お客さま目線で物事を考える力は、簡単に身につくものではありません。
こうして彼女は、僕たちの会社へ入社することになりました。
入社すると彼女は…
入社後しばらくは、マーケティング部長も彼女に対して厳しい態度を崩しませんでした。
しかし彼女は、店舗スタッフの声やお客さまアンケートを丁寧に集め、これまでになかった販促企画やキャンペーンを次々と提案。最初に担当した企画は大きな反響を呼び、その後もヒットを重ねていきました。
以前は採用に反対していたマーケティング部長も、彼女が次々と成果を上げる姿を見て、少しずつその実力を認めるようになりました。今では企画について意見を求めることも増え、以前のように見た目だけで判断することはなくなっています。
あの日、ジャージ姿という見た目だけで判断していたら、彼女の才能を活かすことはできなかったでしょう。改めて、人の価値は見た目ではなく、その人が積み重ねてきた経験や考え方に表れるのだと実感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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