施設での生活は決してラクではありませんでしたが、姉がいたから乗り越えられたのだと思っています。
一方で、実の両親については顔も名前も覚えていません。血がつながっているという事実以外、私にとっては何の思い出もない存在でした。
そんな私の前に、ある日突然「実の両親」を名乗る男女が現れたのです……。
私を見つめる見知らぬ夫婦
ある日の仕事帰り、最寄り駅を出たところで、見知らぬ中年夫婦とすれ違いました。2人は写真を見比べながら私の顔を何度も確認し、ひそひそと話しています。
なんとも言えない不気味さを感じ、私は急いで家へ帰りました。
その夜、たまたま遊びに来ていた姉へその出来事を話すと、姉は少し考え込んだあと、静かに言いました。
「たぶん、その人たち……私たちの親だと思う」
さらに姉は、以前に施設の職員から「実の両親が娘たちを探しているらしい」と聞いたことがあると教えてくれました。
まさか今になって現れるなんて……。嫌な予感がして、その日は戸締まりを何度も確認してから眠りました。
突然、自宅に現れた実の両親
数日後の休日、インターホンが鳴りました。モニターを確認すると、そこには駅で見かけたあの夫婦が……。どうやら尾行され、自宅まで知られてしまったようです。
恐る恐る応対すると、女性は満面の笑みで言いました。
「久しぶり! 私があなたのお母さんよ。ずっと会いたかったの」
しかし、その顔を見ても何の感情も湧きません。私が思い出せる「家族」は、いつも私の手を握ってくれた姉だけでした。
恩返しの強要
「今さら、何の用ですか?」と私が冷静に尋ねると、女性の表情は一瞬険しくなりました。しかしすぐさま笑顔に戻り、こう言ったのです。
「私たち、お金がないの。同居して面倒を見てもらいたくて」
男性も続けます。
「産んでもらった恩があるだろ。これからは恩返しをしろ」
突然現れた見知らぬ男女から、同居を要求されるなんて理解できませんでした。仮に本当に実の親だったとしても、私には受け入れる理由がありません。
私ははっきりと伝えました。
「あなた方に恩なんてありません。同居もしません」
「私の家族は夫と息子、そして姉だけです」
さらにスマートフォンを手に取り、「これ以上居座るなら警察を呼びます」と言うと、2人は慌てたように去っていきました。
私を守ってくれていたのは…
その夜、すぐに姉へ連絡した私。話を聞いた姉は、どこか心苦しそうな口調でこう打ち明けてくれました。
「実は何年か前に、あの人たちが私のところにも来たことがあるの」
姉はそのとき、「もう二度と近づいてこないでください」「次に接触したら、弁護士に相談したうえで法的な対応も検討します」とはっきり伝えたそう。
姉は、私に余計な心配をかけたくないという思いから、その出来事をあえて話さず、ひとりで抱えてくれていたのです。
その後、あの2人は姉には近づけないと判断したのか、今度は私なら押し切れると思ったのか……。標的を私へ変えて、自宅まで調べて押しかけてきたようです。
「あのときに、私と妹に金輪際近づくなって言うべきだった」
「怖い思いをさせてしまって、ごめんね」
姉はそう謝ってくれましたが、私を守ってくれていたことには変わりありません。それ以来、実の両親が私たちの前に現れることはありませんでした。
私にとって家族とは、苦しいときも寄り添い、支えてくれた人たちのことです。実の親であっても、自分たちの都合だけで近づいてくる相手を受け入れる必要はありません。
血のつながりだけでは、家族にはなれないのだと改めて感じました。
今は、私にとって大切な家族と姉を守りながら、これからも穏やかな毎日を過ごしていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。