育休中の私は「働いていない人」?
私は第1子の出産を機に、勤務先の育児休業制度を利用していました。出産直後は夫も買い物に行ったり子どもを抱いたりしてくれましたが、数カ月たつと、少しずつ家事や育児を避けるようになり、帰宅するとソファに座って夕食が出てくるまでスマートフォンを見ているだけ。食べ終わった食器も、テーブルに置いたままでした。
夜中に子どもが泣いても、夫は布団をかぶって「明日も仕事なんだけど」と言うばかりです。私も寝不足だと訴えると、決まって「でも、昼間は家にいるだろ。子どもが寝たときに寝ればいいじゃん」と返してきました。けれど子どもが寝ている間には、洗濯や掃除、食事の準備が待っています。役所へ出す書類を確認し、予防接種や健診の予定を調整するのも私でした。それでも夫にとって、会社へ行かない私は「働いていない人」で、外で働いて妻子を養う大黒柱は自分だと思っているようでした。
休日に子どもの世話を頼めば「休みの日くらい自由にさせて」と不機嫌になり、育児に休日はないと伝えても、鼻で笑って「俺と同じだけ稼いでから言ってよ」と言い放ちます。その言葉を聞くたびに、胸の奥に小さな怒りが積み重なっていきました。
夫はことあるごとに、自分の収入だけで家族を養っているかのような言い方をしていました。そこで私は、実際に生活費をどこから出しているのか説明しようと、毎月のお金の流れをまとめた家計表を作り、何度も夫に見てほしいと伝えていました。それでも夫は一度もまともに見ようとせず、「細かいことはわからないから、任せるよ」と言うくせに、何かあると「俺が生活費を出している」と威張るのです。
子どもの発熱より、遊びを優先した夫
ある休日の朝、子どもが熱を出しました。体が熱く、いつもより元気がありません。医療機関に電話をして受診できる時間や持ち物を確認していると、夫が着替えて出かけようとしています。
「どこに行くの?」
「友だちとパチンコ。前から約束してたから」
子どもが熱を出しているのだから、せめて一緒に病院へ行ってほしいと頼みました。しかし夫は露骨に嫌そうな顔で、「病院なんて1人で連れて行けるだろ。俺が付いていっても熱が下がるわけじゃないし」と言い残し、出かけてしまいました。
私は1人で子どもを病院へ連れて行き、帰宅後も水分を取らせたり着替えさせたりしながら様子を見ました。幸い重い症状ではありませんでしたが、機嫌が悪く、抱いていないと泣いてしまうので、夕食を作る余裕などありません。それなのに夕方に帰宅した夫は、散らかった部屋を見回すと大きなため息をつき、「まだ夕飯できてないの?」と言い放ちます。朝から子どもの看病をしていたことも、自分が遊びに出かけていたことも頭から抜け落ちているようで、私は耳を疑いました。
「今日はこの子が熱を出していたんだよ。あなたは遊びに行ったんだから、夕飯くらい自分で何とかして」
そう返すと、夫は眉をつり上げました。
「無職が働いてる俺に口答えすんな!」
子どもが驚いて泣き出しても、夫は声を抑えようとしません。
「俺の金で生きてるくせにいい気になるなよ」
その瞬間、私が感じたのは怒りよりもあきれでした。この人は本当に、何も知らないのだと。私は泣き出した子どもを別室で落ち着かせ、眠ったのを確認してから、保管していた家計表と通帳を持ってリビングへ戻りました。そして、夫の前に置きます。
「あんたの金? 現実見てから言えよ」
夫が知らなかった事実
夫は戸惑った様子で家計表を眺めていました。これまで支出の内訳をまともに確認してこなかったため、数字を見ても、すぐには状況をのみ込めないようでした。
夫が毎月、家計用の口座に入れているお金の大半は、住宅費と車のローンに充てられ、そこから夫名義の奨学金も返済されていました。住宅費や車のローンも、家族で暮らすために必要な負担です。けれど、食費や光熱費、通信費、保険料、日用品、子どものおむつや衣類にかかる費用は別でした。
さらに夫は、独身時代とほぼ変わらない額を小遣いとして使い、飲み会やパチンコ代が足りなくなると、家計用の口座から引き出すことさえありました。
「あなたの給料だけで生活しているわけじゃない。この数カ月は、私の育児休業給付や預金、夫婦で蓄えたお金から出している分の方が多いよ」
育休に入ってから預金がいくら減ったのかも示すと、夫は家計表と通帳を何度も見比べるうちに、先ほどまでの勢いを失い、顔から血の気が引いていきました。
「でも、住宅費は俺が払ってるだろ」
ようやく出た言葉も、声が震えています。
「払ってるよ。でも、それだけで家族全員を養っていることにはならないでしょう」
すると夫は急に私を責め始め、「こんなに金がかかってるなら、もっと早く言えよ。俺は知らなかったんだから仕方ないだろ」と言い訳を並べました。私は「毎月、家計表を見てほしいと言ったよね」とスマートフォンを開き、以前送ったメッセージを見せます。支出を見直したいこと、夫の小遣いを一時的に減らしてほしいこと、預金の減りが大きいこと。どの連絡にも、夫は「任せる」「今忙しい」としか返していませんでした。
夫はいったん黙り込みましたが、謝罪はなく、しばらくすると「育休が終わって復職すれば問題ない」「家計を管理していたお前にも責任がある」と言い訳を続けます。その姿を見て、私の気持ちは決まりました。問題は、夫の収入額ではありません。子どもが熱を出しても遊びを優先し、私の話を聞かず、事実を見せられても責任を押し付ける。そのうえ私を、自分より下の人間として扱っていたことでした。
夫が必要としていたのは「妻」ではなかった
私は両親に事情を話し、必要な物をまとめて子どもと実家へ移りました。衝動的に家を出たわけではなく、勤務先に復職時期を相談し、保育園の利用に必要な手続きや今後の生活費についても一つずつ確認したうえでの決断です。
夫は最初、「勝手に出ていくなら好きにしろ」と強がっていました。ところが数週間後、連絡の内容が変わり始めます。食費や光熱費が思ったよりかかること、車の維持費が重いこと、家事をする時間がなく外食ばかりで金が減ること。そしてついに、夫はこう言いました。
「戻ってこなくてもいいから、家計だけ管理してくれないか」
その言葉で、私はかえって迷いがなくなりました。
「あなたが必要としているのは妻じゃない。家事をして、お金を管理して、黙って不足分を出してくれる人でしょう」
夫は慌てて「そういう意味じゃない」「これからは子どものことも手伝う」と言い直しました。育児を自分の役割ではなく、私を助けるためにするものだと考えているようでした。
しかし、私が離婚の意思を伝えると、声を弱めながらも「そこまですることか」と、最後まで自分の言動を軽く扱おうとしました。私は専門家に相談し、夫と離婚条件について話し合いを重ねました。その後、離婚が成立しました。子どもの生活に必要な費用についても取り決め、書面に残しています。
現在、私は復職に向けて生活のリズムを整えているところです。実家では両親に頼り切りにならないよう、できる家事は自分で行い、子どもが寝た後には仕事の資料にも目を通しています。もう少し生活が落ち着いたら、以前中断した資格の勉強も少しずつ再開したいと思っています。以前より忙しい日もありますが、誰かに「養ってやっている」と見下されながら暮らしていたころより、食卓で落ち着いてご飯を食べられる今の方が、ずっと安心できます。
◇ ◇ ◇
家事や育児、お金の管理は、周囲から負担が見えにくいこともあるのかもしれません。相手に理解してもらえない状況が続くと、自分の感じているつらさまで軽く考えてしまうこともありそうです。
違和感を覚えたときは、やりとりや家計の記録を残したり、信頼できる人に話したりすることで、状況を振り返るきっかけになるのではないでしょうか。