現場経験を軽く見られていた日々
定年後、私はそれまで勤めていた建設会社に嘱託職員として再雇用されました。長年、現場で仕事をしてきたため、建設現場で起こるさまざまなトラブルや判断には、それなりの経験があると思っていました。
しかし、新しく配属された部署の上司は、30代の若手社員でした。仕事ができる人ではありましたが、私の経歴にはあまり関心がないようで、どこか「昔のやり方しか知らない人」と見られているように感じることがありました。
会議でも私に発言の機会が回ってくることはほとんどなく、日々任されるのはシュレッダーがけや資料のホチキス止めといった作業ばかりでした。もちろん、どの仕事も必要な業務ではあります。けれど、長年現場で培ってきた経験をまったく求められない状況に、胸の奥では悔しさが募っていました。
大規模プロジェクトで起きた異変
ある日、その上司が担当していた大規模プロジェクトで、設計上の重大な欠陥が見つかりました。このままでは工事が止まってしまうかもしれないという、かなり深刻な状況でした。最新のシミュレーションソフトを使っても原因が特定できず、上司は青ざめた顔で頭を抱えていました。周囲もどう対応すればよいのかわからず、部署全体に重い空気が流れていました。
その様子を見ていた私は、どうしても黙っていられませんでした。作業していたホチキスを置いて、上司のデスクに歩み寄って、「その地盤なら、30年前の難工事と同じ現象が起きている可能性があります」と伝えました。そして、かつて自分が経験した事例と、そのときの解決策を記した手書きのメモを差し出しました。
経験が危機を救った瞬間
最初、上司は私の言葉をすぐには受け入れませんでした。「現場を離れた人が口を出しても」と思ったのかもしれません。けれど、ほかに有効な手が見つからない状況だったこともあり、最終的には私の指摘を確認することになりました。すると、まさに私が指摘した通りの構造上の弱点が見つかったのです。過去に似た条件の現場で起きた現象と、今回の状況が一致していました。
その後、私の経験に基づいた対応策が取り入れられ、現場は数日で正常な状態に戻りました。大きな損失につながる可能性があった事態を避けることができ、部署の空気も少しずつ変わっていきました。
それ以来、上司の態度は以前とは違うものになりました。会議で意見を求められることも増え、今では「相談役」のような立場で接してくれるようになっています。年齢だけで人を判断されていたように感じていた私にとって、現場で積み重ねてきたものが認められた瞬間でした。
まとめ
この出来事を通じて、私は経験は目に見えにくくても、確かな財産なのだと改めて感じました。テクノロジーが進化し、便利な道具が増えても、実際の現場でしか得られない勘や判断力があります。もちろん、新しい技術を学ぶことも大切です。けれど、年齢や役職だけで人を判断してしまうと、大事な知恵を見落としてしまうこともあるのだと思いました。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
著者:高橋健一/60代男性・会社員
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年6月)
※一部、AI生成画像を使用しています。
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