人生で一番幸せな日になるはずだった
付き合って3年が経ち、僕はプロポーズを決意しました。彼女が以前から「いつか欲しい」と話していたブランドの婚約指輪を購入し、食事のあとに渡そうと、とあるホテルレストランを予約していたのです。
バッグの中には婚約指輪。あとはタイミングを見て想いを伝えるだけでした。彼女もどこか落ち着かない様子で、きっと今日が特別な日になると気づいていたのだと思います。
ところが、席に着いて乾杯をしようとした、そのときでした。彼女がスマホを見るなり、表情を変えたのです。
「大変!推しが緊急ライブ始めちゃった!」
そう言うと、彼女はスマホを握りしめたまま店の外へ飛び出していきました。
プロポーズを控えた日くらい、一緒に食事を楽しんでほしかった――。少し残念には思いましたが、「そんなところも彼女らしいか」と自分に言い聞かせながら、僕は一人で彼女を待っていました。
届いた一通のメッセージ
彼女が戻るのを待っている間、スマホに一通のメッセージが届きました。送り主は、ほとんど連絡をとったことがない彼女の親友でした。
『突然ご連絡して申し訳ありません。どうしても伝えておきたいことがありました』
続いて送られてきたのは、彼女とのトーク画面のスクリーンショットでした。
『今日プロポーズされると思う(笑)』
『あのブランドの指輪なら高く売れそう』
『借金も返せるかな(笑)』
借金という言葉に、思わず息をのみました。彼女がお金に困っているなんて聞いたこともなかったからです。さらに親友が、『そんなことやめなよ。本当に結婚する気あるの?』と送ると、彼女はこう返していました。
『結婚はそのあと考える』
『彼はやさしいから、うまくだませると思う(笑)』
思わず息をのみました。頭では「そんなはずがない」と思う一方で、画面に並ぶ内容は、どれも本人しか知らない話ばかりです。
親友からは最後に、こんなメッセージも届いていました。
『何度も考え直すように伝えました。でも聞いてもらえませんでした。本当にごめんなさい』
何かの冗談であってほしい――そう願っているうちに、彼女が何事もなかったような笑顔で戻ってきたのです。
「別れよう」と告げた瞬間…
食事が始まってからも、彼女は何度もスマホを気にしていました。以前なら気にならなかったその姿も、親友から届いたメッセージを見たあとでは、まったく違って見えてしまいました。
食事を終えたあと、僕は静かに切り出しました。
「さっき、君の親友から連絡がきた」
その瞬間、彼女の笑顔が消え、みるみる顔色が変わっていきます。何も内容を説明していないのに、その表情だけで、思い当たることがあるのだとわかりました。
彼女は慌てて否定しようとしましたが、言葉は続きません。しばらく黙り込んだあと、話をそらすように、「そんなことより、早く指輪ちょうだいよ」と言いました。
やはり、僕が婚約指輪を買ったことにも気づいていたようです。そのひと言で、僕の中の迷いは完全に消えました。
バッグから婚約指輪のケースを取り出すと、彼女の視線は僕ではなく、そのケースへ釘付けになります。
「……別れよう」
そう告げた瞬間、思わずケースが手から離れました。
彼女は悲鳴を上げ、椅子を倒しながら僕ではなく婚約指輪へ飛びつきます。その姿を見た瞬間、すべてを悟りました。彼女が本当に欲しかったのは、僕ではなく婚約指輪だったのだと。
僕は床へ落ちる前にケースを受け止めると、そのままバッグへしまい、店をあとにしました。
信頼を失った恋の結末
数日後、改めて彼女と話し合いました。彼女は推し活にのめり込み、借金を抱えていたことを認めました。
「借金のことはちゃんと話そうと思ってた」
「本気で指輪を売ろうとしていたわけじゃない」
そう何度も繰り返していましたが、僕にはもう信じることはできませんでした。もし最初から借金のことを打ち明けてくれていたら、一緒に返済方法を考えていたかもしれません。
でも、彼女が選んだのは相談ではなく、僕を利用することでした。
好きという気持ちだけでは、結婚生活は続けられません。大切なのは、お互いを信じ、誠実に向き合える関係なのだと、この出来事を通して痛感しました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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