父の職業だけで家計を決めつける同級生
高校3年生の夏休み、私は大学受験に向けた補講に参加していました。授業を終えて友人と話していると、部活動を終えたA子が声をかけてきました。
「わざわざ夏休みにまで勉強しているの? バイトをしたほうがいいんじゃない?」
A子の父親は会社を経営しており、家庭にかなり余裕があるようでした。A子はブランド品や海外旅行の話をよくしており、家庭環境の違いを持ち出して、周囲と自分を比べることも少なくありませんでした。
私が返事をせずにいると、A子はさらに続けました。
「お父さんは清掃員なんでしょ? 大学に合格しても、入学金や授業料を払えるの? 無理に進学するより、高校を卒業したら働いたほうが親孝行なんじゃない?」
父の仕事を理由に、わが家の事情を勝手に推測されたことが悔しく、私は何も言い返せませんでした。A子はそんな私を見て満足したのか、友人たちとその場を立ち去っていきました。
その後、私は両親と進路について何度も話し合いました。大学進学も検討しましたが、以前から興味のあったホテル業界で働く道を選ぶことにしたのです。
高校卒業後、私は地元のホテルへ就職しました。最初に配属されたのは、客室の清掃や備品の準備を担当する部署です。体力のいる仕事でしたが、父が長年続けてきた清掃の仕事の大変さを、初めて身をもって感じました。
20年後の同窓会でも変わらない態度
高校を卒業してから20年後、久しぶりに同窓会が開かれることになりました。会場は、私が勤務しているホテルでした。幹事を務める友人から相談を受け、宴会場の予約を手伝いましたが、私の役職まではほかの同級生に伝えていませんでした。
当日、友人たちとの再会を楽しんでいると、A子がこちらへ近づいてきました。
「あら、あなたも参加したの? こんな高級ホテルにあなたは場違いじゃない?」
「それより参加費は大丈夫? 必要なら貸してあげようか?」
私が参加費を払えないと決めつけるような言い方に、周囲の友人たちも気まずそうな表情を浮かべました。私が「心配してくれなくても大丈夫よ」と答えても、A子の嫌みは止まりません。
「私は夫とこういうホテルをよく利用しているけれど、あなたには縁がないでしょう? 同窓会だからって、ずいぶん無理をしたんじゃない?」
高校時代から、A子は何も変わっていないようでした。私が「相変わらず、人を見下すような言い方をするのね」と言うと、A子はむっとした表情を浮かべました。
ホテルスタッフのひと言で空気が一変
そのとき、ホテルのスタッフが私のもとへやって来ました。
「支配人、少しよろしいでしょうか。宴会場の進行について確認したいことがあります」
スタッフの言葉を聞いたA子は、目を見開きました。
「支配人……?」
私はA子に向き直りました。
「高校を卒業してから、このホテルを運営する会社で働いているの。最初は客室清掃を担当して、その後、宴会部門やフロント、スタッフの教育など、さまざまな仕事を経験したわ。今はこのホテルの支配人を任されているのよ」
A子は信じられない様子で、私とスタッフを交互に見ていました。
「あなたはよく私の父の職業を見下すようなことを言ってきたけれど、私は父がまじめに働く姿を見てきたから、どんな仕事にも誇りを持って向き合えたのだと思う」
私がそう伝えると、A子は何か言い返そうとしましたが、言葉が出てこない様子でした。周囲にいた同級生の1人が、「高校を卒業してからずっと頑張ってきたんだね」と声をかけてくれました。
A子はそれ以上何も言わず、気まずそうに自分の席へ戻っていきました。
職業だけで人の価値は決められない
高校時代、A子に父の職業を理由に、わが家の経済状況まで決めつけられたときは、悔しさを感じながらも言い返せませんでした。
しかし、自分自身がホテルで働くようになり、施設を支えているのは、接客をする人だけではないと知りました。客室を整える人、料理を作る人、設備を管理する人など、さまざまな役割を担うスタッフがいるからこそ、1つのホテルを運営できます。
20年ぶりにA子と再会し、父の仕事について自分の言葉で伝えられたことで、長年胸に残っていた悔しさも少し和らぎました。
大切なのは、どのような仕事をしているかではなく、その仕事にどう向き合ってきたかではないかと感じています。
これからもホテルを支える1人として、各部署で働くスタッフに敬意を払い、お客さまに心地よく過ごしてもらえる場所をつくっていきたいです。
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父親の職業を理由に、主人公の家庭環境や将来まで決めつけていたA子。けれど主人公は、父が続けてきた清掃の仕事の大変さと大切さを自らの経験を通して知り、ホテルのさまざまな部署で実績を重ねて支配人になりました。肩書や収入だけでは、その人が積み重ねてきた努力や仕事への誇りまではわかりません。ホテルを支える一人ひとりの仕事に目を向ける主人公の言葉が、長年の悔しさを静かに晴らしてくれたように感じます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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