感じのいい婚約者だと思っていたのに…
兄が連れてきた婚約者は、礼儀正しく、にこやかな笑顔が印象的な女性でした。私にも「本当の姉妹みたいに仲良くしてくださいね」と気さくに話しかけてくれ、両親もすっかり安心していました。
ところが帰り際、玄関で見送っていると、彼女が私だけに小さな声でこう言ったのです。
「お義父さんの会社で働いているんですよね? でも……私たちが結婚したら家族の形も変わりますし、そろそろ自立も考えたほうがいいかもしれませんね」
一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。しかし彼女はすぐに笑顔へ戻ると、「また遊びに来ます」と何事もなかったように帰っていったのです。
気になった私は兄へ相談しましたが、「考えすぎじゃない?悪気はないと思うよ」と笑って流されてしまいました。
私も勘違いだったのかもしれないと、自分を納得させることにしました。
突然始まった「実家乗っ取り計画」
それから数日後のことです。平日の午前中、いつものように自宅で仕事をしていると、インターホンが鳴りました。
玄関に立っていたのは、先日家に来た兄の婚約者です。どこか暗い表情をしていたため、何かあったのかと思い、私は家の中へ招き入れました。
すると彼女は、突然「この家のことなんですが……」と切り出したのです。そして、信じられない話を始めました。
結婚したら兄は父の会社を継ぎ、この家は自分たち夫婦のものになるということ。私の部屋は夫婦の寝室にする予定だから、私は早めに家を出たほうがいいこと。両親は近所のマンションでも借りて暮らせば十分だということまで、まるで決定事項のように話し続けました。
私は突然の話に言葉を失いました。
「この家は父と母の家ですし、そんな話は聞いていません」
そう伝えると、彼女は表情ひとつ変えずに「正直、あなたは邪魔なんです」と言いました。
そして、父の会社で働いているとはいえ家にいるだけなのだから「実質ニートみたいなもの」だと私を見下し、「私たちの生活の邪魔になるので、早めに出て行ってください」と言い放ったのです。
思わぬ人物が現れて…
そのとき、二階から階段を下りる足音が聞こえました。驚いて振り向くと、そこにいたのは兄でした。
実家に保管していた書類を取りに立ち寄っていたそうですが、私は仕事部屋にいたため、兄が来ていたことにまったく気づいていなかったのです。
兄は静かに「今の話、どういうつもり?」と尋ねました。すると婚約者は慌てるどころか、「二人の将来のために当然の話をしただけ」と言い切り、会社も家も兄が継ぐのは当然だと主張し、自分たちが住む計画まで話し始めたのです。
兄はしばらく黙って話を聞くと、「今はお互い冷静じゃない。この話は後日改めてしよう」とだけ伝え、その日は婚約者を連れて帰りました。
その後しばらくして、兄から連絡がありました。
婚約者と改めて話し合ったものの、考え方の違いは埋まらず、婚約は白紙にしたというのです。兄は「あのとき君の話を勘違いだと決めつけてしまってごめん」と謝ってくれました。
第一印象だけで、人の本当の姿はわからないものです。自分より立場が弱いと思った相手に、どんな態度を取るのか。その姿勢にこそ、人柄は表れるのだと実感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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