数合わせで向かった合コン
その日、僕は朝から会社で倉庫の整理を手伝っていました。重い荷物を運ぶ作業もあったため、服装は会社支給のポロシャツに動きやすいパンツ、スニーカー。終業後はいったん帰宅し、シャワーを浴びて着替えるつもりでした。
誘ってきたのは、高校時代の同級生・B男です。人付き合いがうまく、いつも輪の中心にいる一方で、昔から人を見下すようなところがありました。久しぶりに連絡がきたと思ったら、「男がひとり足りないんだ。顔だけ出してくれない?」とのこと。乗り気ではありませんでしたが、共通の知人も参加すると聞き、引き受けることに。
ところが終業直後、B男から「悪い。俺、19時って伝えたけど、本当は18時半だった」と電話がかかってきたのです。すでに開始時間は目前。帰宅していたら完全に遅刻です。外は雨でしたが、直前に欠席するほうが失礼だと思い、僕は作業着同然の格好で会場へ急ぎました。
会場に着くなり笑われて…
会場に着くころには、服も髪も雨で濡れていました。個室には、きれいめな服装の男女がそろっています。僕が「遅れてすみません」と頭を下げると、B男は真っ先に吹き出しました。
「うわ、本当にその格好で来たのかよ。合コンだぞ?」
僕が事情を説明しようとすると、B男は「女性陣に失礼だろ。数合わせとはいえ、もう少し頑張れよ」と笑います。さらに、「こいつ、昔から地味でさ」と言ったあと、僕の耳元で「今日は助かったわ。お前がいると俺が目立つからな」とささやいたのです。
思わずムッとしましたが、場の空気を悪くしたくありません。僕が黙っていると、B男は「ほら、女性陣も困ってるだろ? 合コンにそんな格好で来る男なんて、なかなかいないよな」と、ますます調子に乗りました。
A美が静かに口を開くと
すると、向かいにいたA美という女性が静かに口を開きました。
「でも、急いで来てくださったんですよね?」
彼女は僕を見て、「雨の中、遅れないように来てくれたんだと思います。それを笑うのはどうなんでしょうか」と続けました。B男は「冗談だって」と笑ってごまかしますが、A美は表情を変えません。
「冗談でも、人前で友人を下げる言い方は好きじゃありません」
そのひと言で、空気が一変しました。B男は焦ったように「昔からこういうノリなんだよ」と弁解しましたが、A美は「昔からの友人なら、なおさら大事にしたほうがいいんじゃないですか」ときっぱり。B男は返す言葉を失っていました。
僕が「ありがとうございます」と伝えると、A美は少し笑い、「私も友人の付き添いで来ただけで、こういう場は得意じゃないんです」と教えてくれました。それから僕たちは席の端で話すことに。A美は相手の話を丁寧に聞いてくれる、落ち着いた女性でした。
挽回しようとするB男だったが…
その後、B男は挽回しようとA美に何度か話しかけていましたが、A美は距離を置くばかり。
ほかの女性陣からの反応も薄く、B男が「場を和ませようとしただけなのに」と言い訳すると、ひとりの女性が「人をいじらないと盛り上げられない人は、ちょっと苦手です」と言いました。
さすがのB男も黙り込み、合コンは予定より早くお開きに。帰り際、B男が「お前、うまくやったな」と悪態をついてきましたが、僕は「別に何もしてないよ」とだけ返しました。
B男は、その場にいた共通の知人から「今日みたいな振る舞いはやめたほうがいいよ」と注意されていて、それ以来、僕を合コンに誘ってくることはありません。
僕とA美はその日、連絡先を交換。後日あらためて食事に行くと、合コンのときより自然に話すことができ、少しずつ距離が縮まっていきました。
場違いな格好で参加した合コンが、思いがけない出会いにつながりました。これからA美と、無理をせず自然体でいられる関係を少しずつ築いていけたらと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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