緊張の結婚あいさつ
僕はごく普通の会社員です。彼女とは仕事を通じて知り合いました。彼女は僕の会社の取引先である大企業に勤めており、その会社を両親が経営しています。
交際中、彼女は仕事とプライベートをきちんと分けていました。僕も家柄を意識しすぎず、ひとりの女性として向き合ってきたつもりです。
結婚の話が出たとき、彼女は「両親は慎重だけど話せばわかってくれると思う」と言いました。しかし、彼女の両親から「当日は会社に来てほしい」と言われ、なんだか嫌な予感が。
応接室に通されると、彼女の両親が待っていました。僕が「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」と頭を下げると、父親は笑顔を見せないまま僕を見つめ、いきなりこう告げたのです。
「君が欲しいのは娘じゃなくて、うちの会社なんじゃないのか」
財産目当てだと疑われて!?
突然の言葉に、僕は何も返せませんでした。母親も「取引先の社員なら、うちに近づく口実はいくらでもあるものね」と冷たく言い放ちます。父親はさらに、「うちの会社や財産が目当てなら、娘は渡さない」と言い切りました。
僕は「そのようなつもりはありません」と伝えましたが、父親は「口では何とでも言えるだろ」と聞く耳を持ってくれません。
相手は取引先企業の経営者でもあります。強く言い返すわけにもいかず、僕は慎重に言葉を選んでいました。すると、隣にいた彼女が深く息を吐きました。
「はあ……やっぱり、そういう話になるんだね」
彼女の声は静かでしたが、怒りがにじんでいるのがわかりました。
両親が引きずっていた過去とは
父親が「何だ、その言い方は」と眉をひそめると、彼女は両親をまっすぐ見ました。
「会社は、お父さんたちだけの財産じゃないよ。社員も取引先も、お客さまもいて成り立っているものでしょ」
母親が「親に向かって何を言うの!」と声を荒らげても、彼女は引きません。
「ちゃんと彼自身を見てよ。お父さんもお母さんも、B山さんのことを引きずってるんでしょ?」
その言葉で、両親の表情が一変しました。
彼女には以前、結婚を考えていたB山さんという男性がいました。両親は当初、落ち着いた雰囲気で仕事もできそうな彼を、とても気に入っていたそうです。
ところがB山さんは、結婚後は会社の経営に関われるのか、財産はどうなるのかといった話ばかりするようになったのだとか。結局、彼女は違和感を見過ごせず、別れを選びました。
「何もしていない彼を、どうして最初から疑うの? 彼はB山さんとはまったく違うよ」
父親が黙り込むと、彼女は続けました。
「私たちは、一緒に生きていきたいと思ったから結婚を決めたの」
その言葉に、思わず胸が熱くなりました。
結婚を認めてもらえて
しばらく沈黙が続いたあと、父親が小さく息を吐きました。
「……すまなかった。過去のことを、君に重ねていたのかもしれない」
母親も、「ひどいことを言ってごめんなさい」と頭を下げてくれました。
僕は「大事な娘さんのことですから、不安になるお気持ちはわかります」と答え、「娘さんを必ず幸せにすると約束します」と伝えました。
すると彼女は、少し得意げに「だから言ったでしょ」と笑いました。その表情を見た父親は、「娘の見る目を信じるべきだったな」と苦笑いし、僕たちの結婚を認めてくれたのです。
結婚のあいさつは穏やかなものではありませんでした。それでも、彼女が僕を信じて毅然と向き合ってくれたことで、僕も自分の思いを伝えられました。
この先の結婚生活で、不安や誤解が生まれることもあるでしょう。そんなときも彼女と支え合い、一緒に乗り越えていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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