結婚直前に発覚した裏切り
お互いの両親へのあいさつも済ませ、結婚式に向けて式場を探していたころのことです。
休日になると2人でいくつもの式場を見学していたのですが、A子は「ここは狭い」「料理が微妙」「もっと豪華なところがいい」など、何かと不満を口にしていました。
最初は一生に一度の結婚式だからこだわりたいのだろうと思っていましたが、何カ所見てもなかなか納得してくれません。予算を考えて相談しても機嫌を悪くすることがあり、僕は少しずつA子の態度に違和感を覚えるようになっていたのです。
そんなある日、社内でA子とB男が話しているところを見かけました。B男は、僕が教育係を担当していた後輩です。
そのときは仕事の話だと思い、特に気にとめませんでした。ところが後日、A子がB男に「今日は家に来ても大丈夫」と話しているのを偶然聞いてしまったのです。
その瞬間、なぜか「そういうことだったのか」と妙に納得してしまいました。
A子に確認すると、2人が僕に隠れて付き合っていたことが判明。しかも、関係はしばらく前から続いていたといいます。
ショックではありましたが、僕は婚約を解消することを決めました。
「なんで怒んないの?」
さらに僕は、この出来事をきっかけに会社を辞めることも決めました。
実は以前から、いつか独立してデザイン事務所を立ち上げたいと考えていました。A子やB男と同じ職場に残るより、予定を少し早めて新しい環境へ進もうと思ったのです。
退職の日が近づき、僕がデスク周りの荷物を整理していたときのこと。B男が近づいてきて、笑いながらこう言いました。
「婚約者だけじゃなく、仕事までなくなっちゃって……俺のせいですよね。すみません(笑)」
どうやらB男は、僕が浮気のショックで会社まで辞めるのだと思っていたようです。僕はまともに相手をせず、聞き流しました。
すると、近くにいた同僚のC美が黙っていられなかったようです。
「B男くん、いい加減にしなよ」
C美は僕と一緒に仕事をすることが多く、A子との結婚も応援してくれていました。浮気のことを知ったときも、僕以上に腹を立ててくれた人です。
そんなC美は、何も言い返さない僕を見て、「なんで怒んないの?」と不思議そうに尋ねました。
僕は少し考えてから、笑ってこう答えました。
「たぶん、これでよかったんだと思う」
もちろん、裏切られて何も感じなかったわけではありません。ただ、A子との結婚に違和感を抱えたまま進むより、今の段階で気づけてよかったとも思いました。
それに、以前から考えていた独立へ踏み出すきっかけにもなりました。A子を取り戻したり、B男に仕返しをしたりするより、新しい道へ進みたいという気持ちのほうが大きかったのです。
数カ月後、元の会社から連絡が
退職後、僕は念願だったデザイン事務所を立ち上げました。最初は苦労しましたが、知人から仕事を紹介してもらうなどして、少しずつ依頼も増えていきました。
そんなある日、以前勤めていた会社から連絡がありました。僕が担当していた取引先をB男が引き継いだものの、うまくいっていないというのです。
B男は自分の考えを優先しすぎるところがあり、取引先から修正を求められてもなかなか受け入れず、話がこじれてしまったそうです。
その結果、先方から「以前の担当者にお願いできないか」と相談があり、会社から僕へ、外注という形で仕事を受けてもらえないかと連絡がきたのでした。
あの日、B男から「仕事までなくなった」と笑われた僕が、今度は元の会社から仕事を依頼されることになるとは思ってもいませんでした。
不思議な気持ちでしたが、会社そのものに恨みがあったわけではないため、僕はその仕事を引き受けました。
その後、僕は…
その後、A子とB男は結婚やお金の使い方を巡って揉めるようになり、しばらくして別れたと聞きました。
一方、僕の仕事はさらに増え、一人では手が回らないことも出てきました。
ちょうどそのころ、C美から退職を考えていると相談されました。彼女は仕事ぶりもよく知る信頼できる人だったため、僕から一緒に働かないかと声をかけました。
今では、C美も僕の事務所で一緒に働いています。
あのとき僕以上に怒ってくれた彼女とは、仕事が終わったあとに2人で食事へ行くことも増えました。
これから僕たちの関係がどうなるのかは、まだわかりません。
ただ、婚約者も仕事も失ったように見えたあの日が、結果的には僕が新しい人生へ踏み出すきっかけになったのだと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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