同い年の夫はもともと甘えん坊なところがありました。しかし、娘が生まれてからというもの、その「構ってほしい」という気持ちがどんどん強くなっていったのです。
生まれたばかりの娘に嫉妬する夫
娘が生まれて間もないころ、私は慣れない育児に追われていました。夜中もミルクやおむつ替えで何度も起きなければならず、まとまった睡眠を取れない日々が続いていました。
そんな私に、夫は平気で甘えてきたのです。
「娘ばっかり構ってないで、俺のことも構ってよ!」
そう言って拗ねたかと思えば、「肩もんで」「明日着る服、出しておいて」などと頼んでくることも。
以前なら笑って応じられたことでも、当時の私は0歳の娘のお世話だけで精いっぱい。自分の食事さえゆっくり取れない状態だったため、夫の世話までしている余裕などありませんでした。
私は何度も、「今は娘のお世話で手いっぱいだから、自分のことは自分でやってほしい」と伝えました。さらに、夫にも父親として育児に関わってほしいと思い、おむつ替えや着替えなどを頼むこともありました。
ところが、夫は面倒そうな顔をするばかり。
「今疲れてるから」
「あとでやるよ」
そう言って逃げてしまうことが多く、結局、私がやる羽目に……。
娘のお世話はしたがらないのに、自分のことは私にしてもらいたがる夫。私は次第に、夫に対する不満を募らせていきました。
夫の言葉に限界を迎えた妻
それから数カ月がたったある日、娘の離乳食を作っていたときのこと。
その日は朝から用事が重なり、いつも以上に疲れていた私。なんとか娘の離乳食だけは用意したものの、私たち夫婦の夕食まで作る余裕はありませんでした。
仕事から帰ってきた夫に事情を話し、「ごめんね。今日は夕食を作れなかったから、何か買ってきてもらえる?」と頼みました。
すると、夫は娘の離乳食を見るなり、不満そうな表情を浮かべました。
「娘のごはんは作ってあるのに、俺のはないの?」
耳を疑いました。
私が「今日は本当に余裕がなかったの」と説明しても、夫は納得してくれません。
「なんで娘ばっかりなんだよ! 俺のほうが先に家族になったんだから、少しくらい俺を優先してくれてもいいだろ!」
その言葉を聞いた瞬間、それまで我慢していたものが一気に溢れ出しそうになりました。
娘はまだ、自分で食事を用意することも着替えることもできない赤ちゃんです。一方、夫は健康な成人男性。それなのに、なぜ同じように世話をしてもらえると思っているのか、私には理解できませんでした。
そこで、あえてこう答えた私。
「……わかった。そんなに構ってほしいなら、そうするね」
私の言葉を聞いて夫は満足そうでしたが、私はあることを思いついていたのです。
両親の前で夫の望みをかなえてみたら……?
ちょうど翌日、私の両親が娘の顔を見に来る予定になっていました。
両親に娘を見てもらい、久しぶりに余裕ができた私は、仕事から帰ってきた夫にさっそく声をかけました。
「おかえり。今日はあなたのこと、ちゃんと構ってあげるね」
最初こそうれしそうだった夫。夕食を並べ、夫のそばに座って「食べさせてほしい? 『あーん』してあげようか?」と言いながら私がスプーンを手にすると、夫はぎょっとした顔をしました。
「いや、自分で食べるけど……」
しかし私は続けました。
「着替えも私に用意してほしいんだよね? 食事も用意して、肩ももんで、自分のことよりあなたを優先してほしいって言ってたじゃない」
私の両親がいることもあってか、みるみるうちに気まずそうな表情になっていった夫。
「いや……もういいよ。俺は子どもじゃないんだから」
そこで私は夫を見て言いました。
「そうだよ。あなたは子どもじゃないよ。だから自分でできることもたくさんあるでしょう?」
「自分では何もできない娘のお世話をしながら、大人のあなたの身の回りのことまで全部やるのは無理だよ」
夫は何も言い返しませんでした。
両親も夫を責めることはせず、黙って私たちのやりとりを聞いていました。それがかえって夫には堪えたようです。
夫がようやく気づいたこと
その日の夜、私の両親が帰ったあと、夫が話しかけてきました。
「ごめん。俺、自分のことばっかり考えてた」
先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情をしていた夫。そこで私も、これまで言えずにいた気持ちをすべて話しました。
毎日、家事と育児だけで精いっぱいだったこと。夜も娘のお世話で何度も起きていて、まとまった睡眠が取れていなかったこと。自分のことさえ後回しにしているのに、夫の身の回りの世話まで求められるのがつらかったこと。
そして、「全部やってほしいとは言わない。でも、自分のことは自分でやってほしいし、休日だけでも娘のお世話を一緒にしてほしい」と伝えました。
夫は私の言葉を黙って聞いたあと、小さく「わかった」とだけ答えました。
それから、夫は少しずつ変わっていきました。休日には自分から娘のおむつを替えたり、離乳食の準備を手伝ったりするように。最初はぎこちなかったものの、娘と過ごす時間が増えるにつれて、夫自身も育児を楽しむようになっていったのです。
娘が夫の顔を見て笑うようになると、「今、俺見て笑ったよね? かわいいなあ」とうれしそうにすることも増えました。あれほど「娘ばっかり」と嫉妬していたのが嘘のように、いつしか娘を溺愛する父親になっていたのです。
夫にはもっと早く父親としての自覚を持ってほしかった、という気持ちは今でもあります。それでも、私がどれほど余裕のない状態だったのかを理解し、自分の態度を改めてくれたので、結果的にはよかったと思っています。
夫婦だからこそ、どちらか一方が我慢し続けるのではなく、お互いの状況をきちんと言葉にして伝えることが大切なのだと実感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。