居場所がなかった25歳の誕生日
彼女たちの25歳の誕生日の夜、僕のスマホに彼女から泣きそうな声で電話がかかってきました。
「家に居場所がない…」
彼女を近くの公園に呼び出して話を聞くと、リビングでは姉のためだけの豪華なパーティーが開かれていたそう。彼女は涙ぐみながら「私の誕生日でもあるのに…」と言っていました。僕が事情を尋ねると、彼女の両親から「就職もうまくいかなくて家にいるばかりなんだから、あなたのお祝いはしないよ」と冷たく言い放たれたとのことでした。
涙をこぼす彼女を見て、僕は憤りを感じると同時に、ある決意をしました。僕は「嫌じゃなければ、しばらくうちのアパートの空き部屋に来たら? 僕が君の家族になるから」と伝え、彼女を実家から出すことにしたのです。
才能を開花させた彼女
「私なんかが近くにいたら、迷惑なんじゃ…」とうつむく彼女に、僕は「『私なんか』って言うのは禁止ね。ちゃんと価値があるんだから」と伝えて……。誕生日プレゼントとして用意していたネックレスを渡すと、彼女は泣きながら笑って喜んでくれました。
実は、当時の僕は大学時代の友人と小さなウェブ制作会社を立ち上げたばかりで、忙しい日々を送っていました。
ある日、彼女が、遠慮がちに「もしできることがあれば、私に任せてくれないかな?」と言ってくれたのです。
大学で経済学を学んでいた彼女ですが、人前で自分をアピールするのが苦手な性格が災いし、面接で落とされ続けていました。そのせいですっかり自信を失っていたのです。そこで、僕が簡単な仕事を任せてみたところ、彼女は丁寧で細かい資料を作ってくれました。
その後も何度か仕事を手助けしてくれて……。僕は、彼女に「今、自分たちの会社は人手が足りなくて困ってるんだ。よければうちで働いてほしい」と声を掛けました。彼女も「自信が持てそうだし、働いてみたい」と乗り気な様子。こうして、彼女はうちの社員として働きだしたのです。
思わぬ人物からの連絡
やがて、うちの会社が地元のビジネス誌で紹介されることに。彼女もスタッフとして写真に載ったのですが、その記事がきっかけで思わぬ人物から連絡が入りました。
彼女の双子の姉から、僕のSNSに連絡がきたのです。姉からは「妹より私のほうが愛想がいいし、営業として雇ってよ」とあまりにも身勝手な内容の連絡が届いていて……。妹の成功が許せなかったのでしょう。僕は、そんな連絡に返信する気にもなれませんでした。
しかし、数日たっても連絡は絶えず、根負けした僕は彼女を連れて双子の姉と会うことに。僕がキッパリと断っても「この冴えない妹よりも、私のほうが役に立つと思うよ?」と彼女を見下すような態度ばかりでした。
すると、同席していた彼女が「私たちは自分たちで頑張っているから、あなたには関係ないよね。家でかわいがってもらったらいいじゃない」と自分の意志でハッキリと拒絶していました。そんな彼女の姿を見て、昔はうつむいていただけだったのに……と僕は胸が熱くなりました。
姉のその後と過去を乗り越えた彼女
その後、姉は身勝手な振る舞いがたたり、親とも揉めて実家を出ることになったと彼女から聞きました。溺愛していた姉にあっさり見捨てられ、両親は今後の自分たちの生活に一気に不安を感じることとなったよう。両親から彼女に「戻ってこないか」と連絡があったそうですが、断ったそう。
彼女は、会社の中心メンバーとして生き生きと働いています。過去の「私なんて」と怯えていた面影はもうありません。振り返れば、僕が彼女にしてあげられたのは、最初の一歩を踏み出すきっかけを作ったことだけだったのかもしれません。自分の才能を見つけ、努力し、彼女自身で自信を取り戻していきました。
生まれた環境や周囲の心ない言葉によって、自分の価値を見失ってしまうことは、誰にでも起こり得ます。けれど、たったひとりでも自分を肯定し、信じてくれる人がいれば、人は前を向き、本来の力を発揮できるのだと思います。
これからも僕は、彼女のことを支え、彼女と支え合いながら、一緒に歩んでいきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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