義両親は、私が世話をするたびに「負担をかけてごめんね」「いつもありがとう」と申し訳なさそうに頭を下げてくれました。
2人分の介護を私1人で担うのは難しかったため、ケアマネジャーに相談し、訪問介護やデイサービスなども利用していました。それでも通院の付き添いや食事の準備、日々の細かな対応まで重なると、在宅ワークとの両立は簡単ではありません。
それでも、やさしい義両親のお世話そのものを苦痛に感じたことはありませんでした。私が何よりつらかったのは、実の両親の介護を押しつけながら、当然のような顔をしていた夫の態度だったのです。
介護を押しつけた夫の裏切りと、一通の手紙
介護が始まったころ、夫は通院の付き添いや買い物を手伝っていました。しかし、次第に仕事を言い訳にして何もしなくなり、いつしか私に任せきりに……。
私が「せめて休日だけでも手伝ってほしい」と頼んでも、夫は面倒そうな顔をするだけ。義両親の状態に合った施設や、短期入所の利用を相談したときも、夫は話を聞こうとすらしませんでした。
「施設は金がかかるだろ。親の世話は、家にいるお前がやればいい」
在宅ワークをしていた私を、夫は「いつでも自由に動ける人」だと思い込んでいたようでした。
何度話し合おうとしても夫の態度は変わらず、私は離婚を考えるように。しかし、義両親の介護や仕事に追われ、具体的に動き出す気力さえ残っていませんでした。
そんなある日、久しぶりに実家へ顔を出したところ、父から思いもよらない話を聞かされたのです。
数日前、父は隣町の居酒屋で夫を見かけたそうです。夫は若い女性と体を寄せ合うようにして酒を飲み、店を出たあと、手をつないで近くのホテルへ入っていったといいます。
私は頭の中が真っ白になりました。自宅に戻ると、夫婦で使っていた机の引き出しに、女性向けアクセサリーを購入したレシートが入っているのを発見。夫宛ての手作りアルバムもあり、中には夫と女性が親しげに写る写真が何枚も貼られていました。私がしばらくその机を使っていなかったので、夫はバレないと思っていたのでしょう。
その後、私は父に目撃した日時や場所を書き留めてもらい、見つけたものを撮影。
すると、それから間もなく、私宛てに1通の手紙が届いたのです。差出人は、アルバムに写っていた女性でした。
『奥さんへ♡
半年前から、あなたの旦那さんと真剣に交際しています!
旦那さんは私がもらいます♡
私のほうが彼にふさわしいので、早く離婚してその家から出ていってください!』
夫が既婚者だと知ったうえで交際していたことを、女性は自ら手紙に書いていました。私は怒りで手が震えましたが、その手紙も大切な証拠になると考え、封筒ごと保管することに。
封筒には差出人の住所が記されていたため、弁護士にも相談したうえで、私は女性に短い返事を書きました。
『了解です。夫と一緒になりたいのでしたら、私は離婚に応じます。ただし、あとで後悔しないでくださいね』
そして、離婚について確認したいことがあるため、夫も交えて話し合いたいと日時を伝え、義実家へ彼女を呼び出したのです。夫には「義実家で話したいことがある」とだけ伝え、不倫相手が来ることは伏せていました。
「この家に住むのは私」と言った不倫相手に告げた現実
約束の日、時間通りに義実家へやってきた不倫相手。何も知らされていなかった夫は、女性の顔を見た瞬間に青ざめました。
「え……誰だっけ? お前の友だち? 初めまして、だよな?」
見苦しいほど動揺しながら、初対面のふりをする夫。しかし、不倫相手は隠すつもりなどなかったようです。夫の腕に自分の腕を絡ませ、私の前で堂々と言いました。
「もう全部話したから隠さなくていいよ。早く離婚するって奥さんに言って。私、あなたとこの広い家で暮らすのを楽しみにしているんだから」
そこで私は、以前から抱いていた疑問の答えを知りました。夫は不倫相手に対し、義実家を自分の持ち家であるかのように説明していたのです。
私はできるだけ冷静な声で伝えました。
「勘違いしているようですが、この家は夫のものではありません。義両親の家です。夫がここで暮らし続けるなら、当面は義両親との同居になります」
不倫相手の笑顔が消えましたが、私はさらに続けました。
「夫はこれまで、両親の介護をほとんど私に任せていました。私が出ていったあと、夫が両親を自宅で支えると言うなら、あなたも介護と無関係ではいられないと思いますよ」
もちろん、私は不倫相手に介護を押しつけるつもりなどありませんでした。夫がどのような話をして女性をその気にさせたのか、確かめたかっただけでした。
すると、不倫相手は夫の腕を振りほどいてこう叫んだのです。
「介護なんて聞いてない! この家はあなたのものだって言ったよね?」
夫は「いずれ俺のものになると思って……」と言い訳しましたが、女性の怒りは収まりません。
「私には何もしなくていいって言ったじゃない! 家事もしなくていいし、仕事も辞めていいって。話が全然違う!」
夫は、自分の経済力や暮らしぶりについて大幅に話を盛り、不倫相手には都合の良い将来を約束していたようでした。
2人が言い争う様子をしばらく見届けたあと、私は封筒に入れておいた書類をテーブルに置きました。
「私は離婚するつもりです。不貞については弁護士に相談しています。夫にも、既婚者だと知りながら関係を続けたあなたにも、正式に慰謝料を請求します」
あの手紙には、女性が夫を既婚者だと認識していたことがはっきり書かれていました。女性は、まさか自分の手紙が不利な資料になるとは考えていなかったのでしょう。先ほどまでの勢いを失い、黙り込んでしまいました。
さらに私は、義両親の意向も伝えました。女性を呼び出すと決める前に、私は義両親にすべてを打ち明けていたのです。
「お義父さんとお義母さんは、この家を売却し、施設へ入る方向で考えているそうです。売却代金は、これからの施設費や生活費に充てるそうです。この家を2人の新居にできると思っていたのなら、諦めてください」
夫は「俺に相談もなく家を売るのか」と声を荒らげました。しかし、この家は義両親の所有物。夫が自由にできる財産ではありません。
義両親は、息子が介護を私に押しつけながら不倫していたと知り、深く落胆していました。そして、今後は息子夫婦に頼らず、専門家の支援を受けられる施設で暮らしたいと決断したのです。
夫も不倫相手も言葉を失っていました。私は2人を残し、事前にまとめておいた荷物を持って義実家を出ました。
自分の人生を取り戻して
その後の話し合いは、弁護士を通して進めました。
当初は、不倫を認めようとしなかった夫。しかし、父の目撃内容や写真、レシート、不倫相手から届いた手紙などを示すと、最終的には関係を認めました。
財産分与や慰謝料などの条件を書面で取り決め、私たちは正式に離婚。不倫相手に対する慰謝料請求についても合意が成立し、決められた額が私に支払われました。
なお、離婚後、元夫と不倫相手の関係は長く続かなかったそうです。
不倫相手は、家や経済力に関する元夫の話がほとんど嘘だったことを知り、元夫を信用できなくなったのでしょう。一方の元夫も、両親の今後や自分自身の生活に向き合わなければならなくなり、女性に約束していたような暮らしを用意できませんでした。
義両親は予定通り自宅を売却し、その資金を使って、必要な介護を受けられる施設へ入居。離婚によって義理の親子ではなくなりましたが、義両親は私に何度も謝り、「あなたには何の責任もない。今まで本当にありがとう」と言ってくれました。私も義両親を嫌いになったわけではなかったため、お互いの負担にならない範囲で、ときどき施設へ顔を見せています。
実家に戻り、それまで続けていた在宅ワークに集中しながら、新しい生活を始めた私。介護から解放されたこと以上に、私の苦労を当然だと決めつける夫から離れられたことが、何よりもうれしく感じられました。
あの手紙を受け取ったときには、怒りと悔しさでいっぱいでした。しかし振り返れば、あの無謀な宣戦布告が、立ち止まっていた私の背中を押してくれたのかもしれません。
「旦那さんは私がもらいます」と書かれていた手紙に対し、私は「どうぞ」と返せたのですから。
ただし、不倫相手が手に入れたのは、聞かされていたような立派な家や優雅な生活ではありませんでした。介護を妻に押しつけ、自分に都合のよい嘘を重ねた男性の、ありのままの姿だったのです。
裏切られた心の傷は簡単には癒えないでしょう。やっと取り戻せた自分の人生を謳歌できるよう、これからは仕事や趣味に打ち込みたいと思っています。
◇ ◇ ◇
家族の介護や生活上の負担は、誰かひとりが背負って当然のものではありません。身近な相手だからこそ、その負担や気持ちに目を向け、感謝や配慮を忘れずにいることが大切です。
また、自分に都合のよい嘘を重ねて築いた関係では、相手との信頼を保つことは難しいでしょう。目先の都合や欲求を優先するのではなく、身近な人に誠実に向き合うことが、信頼関係を築くうえで大切なのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。