幼なじみの母から突然の結婚自慢
ある日、買い物から帰ってきた母がどっと疲れた様子をしていました。話を聞くと、スーパーでA子の母親と会い、A子が大手出版社に勤める男性と結婚するという話を延々と聞かされたそうです。
それだけならよかったのですが、A子の母親は私のことまで話題に出し、「まだ独身なの?」「家で何の仕事をしているの?」などと聞いてきたとのこと。
さらに、「行き遅れないように、うちの娘の結婚式に招待してあげましょうか。ブーケトスに参加したらいいんじゃない?」とまで言われたそうです。
母は腹を立てて、「娘は出席しません」ときっぱり断ってくれたと言います。
「それでよかったよね?」と聞く母に、私は「もちろん。ありがとう」と答えました。
A子とは幼なじみではありましたが、仲が良かったわけではありません。昔から「あんたって本当に地味だよね」「友だちも彼氏もいなくて寂しくないの?」などと言われることがあり、成長するにつれて自然と距離を置くようになっていました。
そのため、A子の結婚についても「私には関係のないこと」と思っていたのです。
招待状に書かれていた新郎の名前
数日後、仕事を終えた私は、気分転換も兼ねて近所のコンビニへ出掛けました。そこで偶然、A子と再会しました。
母は出席しないとはっきり断ったはずなのですが、なぜかA子には話が違って伝わっていたようです。
A子は開口一番、「ママから聞いたけど、あなた私の結婚式に来たいんだって? 出版関係者との出会いでも期待しているわけ?」と、決めつけるような物言いをしてきました。
私はすぐに否定しましたが、A子はまともに話を聞こうとしません。むしろ「本当は呼ぶ予定はなかったけれど、そこまで来たいなら招待してあげる」と勝手に話を進めます。
「わざわざ席を用意してあげるんだから、ご祝儀は最低10万円くらい包んでよね!」
あまりに一方的な物言いに嫌気がさし、私は改めて「出席するつもりはないよ」と告げ、その場を離れました。
ところが数日後、私のもとに本当にA子の結婚式の招待状が届きました。出席するつもりはないと伝えたはずなのに、と戸惑いながら招待状を見ると、新郎の名前に見覚えがありました。
新郎のB也さんは、私がお世話になっている出版社に勤める編集者でした。さらにB也さんの父親は、私が作家として活動を始めたころから仕事でお世話になっている方です。
実は私は、ペンネームで作家活動をしており、近所では仕事について詳しく話していませんでした。そのため、A子も私が作家であることを知らなかったのです。
驚いた私はB也さんに連絡し、招待状について確認しました。すると、A子から「幼なじみをもう1人招待したい」と相談された際、私の名前に聞き覚えがあり、父親に確認したところ、私だとわかったとのこと。
B也さんは、A子に私との仕事上のつながりまでは話していなかったそうです。しかし、以前から仕事で付き合いのある私ならぜひ来てほしいと、B也さんも招待に賛成したそうです。
もともと出席するつもりはありませんでしたが、B也さんから改めて歓迎してもらったこともあり、少し迷った末、私は結婚式に出席することにしました。
式場で明らかになった私の仕事
そして結婚式当日。披露宴が始まり、歓談の時間になったころ、私は新郎新婦のもとへあいさつに向かいました。するとA子は、私を見るなり「ちゃんとご祝儀は10万円持ってきた?」と、あいさつもそこそこに尋ねてきました。さらに、近くにいたA子の母親まで会話に加わり、ご祝儀の額について念を押すように確認してきたのです。
私は友人としてご祝儀を用意していましたが、A子から要求された10万円ではありませんでした。そのことをやんわり伝えると、A子は露骨に不満そうな表情を浮かべ、周囲にも聞こえるような声で「指定した額のご祝儀を持ってこないなんて、非常識じゃない? こっちはわざわざ席を用意してあげたんだよ?」と責めてきました。
すると、隣にいたB也さんが私たちの会話に気付きました。さらに、騒ぎに気付いたB也さんのご両親も近くへやって来ました。B也さんの父親は私を見るなり、笑顔で声を掛けてくれました。
「先生、来てくださったんですね。ありがとうございます」
思いがけない呼び方に、A子は驚いた様子でした。戸惑うA子に、私はペンネームで作家活動をしており、B也さんの父親には以前から仕事でお世話になっていることを説明しました。
事情を知ったA子は一瞬言葉に詰まりましたが、すぐに表情を変え、「そうだったんだ。全然知らなかった! さっきのは冗談だから気にしないでね」と、先ほどまでとは打って変わって愛想よく話しかけてきました。
するとB也さんは、そんなA子の態度を見て表情を曇らせました。
「先生だとわかった途端に態度を変えるのはおかしいよ。それに、ご祝儀10万円なんて……。非常識なのはA子のほうじゃないのか?」
A子は「そんなつもりじゃなかった」と弁解しましたが、B也さんの表情は険しいままでした。
その場はB也さんのご両親が間に入り、何とか場を収めました。その後、披露宴は予定通り進みました。ただ、私にはA子とB也さんの間に、それまでとは違う空気が流れているように見えました。
結婚式後に聞いた2人の決断
それからしばらくして、B也さんから連絡がありました。結婚式での一件をきっかけに、B也さんはこれまでのA子の言動についても改めて考えるようになったそうです。
私は、「自分のせいでこんなことになったのでは」と心配になりました。するとB也さんは、「先生のせいではありません。むしろ、結婚式まで気付けなかった自分の問題です」と言いました。
話し合う中で、人との接し方をはじめ、これまで意識していなかった考え方の違いも見えてきたそうです。その後も2人は何度か話し合いましたが、溝は埋まらなかったとのことでした。婚姻届は式の後に提出する予定で、まだ提出していなかったため、最終的には提出を見送り、別々の道を選ぶことになったと聞きました。
今回の出来事を通して、人の職業や肩書きを自分の思い込みだけで決めつけることの危うさを改めて感じました。
私は今も、両親と暮らしながら自宅で仕事を続けています。周囲からどう見られるかにとらわれるより、自分が大切にしたい人や仕事に誠実でいることを、これからも大事にしたいと思っています。
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人の仕事や立場を知らないまま、見た目や暮らしぶりだけで決めつけてしまうと、その人自身を見誤ることもあります。今回の出来事は、相手の肩書きによって態度を変えるのではなく、どんな相手にも同じように敬意を持って接することの大切さを考えさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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