地元の地主の家系で裕福なその人は、保護者の間でいわゆるボスママ的な存在です。ある日の授業参観後、ボスママと数名の取り巻きママたちに声をかけられました。ボスママ軍団が苦手な私は、見つからないようにそっと帰るつもりだったのですが、捕まってしまったのです。
「今からみんなで新しくできたフレンチレストランでランチなんだけど、あなたも来ない?」
そう誘われましたが、私はやんわりと断りました。すると、取り巻きの1人が「もしかして、レストランに行くようなお金、持ってらっしゃらないんじゃない?」と見下すように笑ったのです。
ここで反論しても面倒なことになるだけだと判断し、私は愛想笑いをして、その場を後にしました。
娘の願いとランチ会への参加
なるべく関わりを持たないように過ごしていたものの、ある日、娘から「Aちゃん(ボスママの娘)を家に呼んで遊びたい」と相談されました。親同士の関係を考えると気が進みませんでしたが、子どもには関係のない話です。私は笑顔で娘に「いいよ」と伝えました。
わが家にやってきたAちゃんは、お行儀がよく、しっかりしたとてもいい子でした。楽しそうに遊ぶ娘たちの姿を見ていると、親同士に距離があるせいで、子どもたちの関係にまで影響が出るのはよくないと思いました。娘たちのためにも、親同士うまくやらなければと思い直したのです。
そんな中、再びボスママからグループメッセージでランチ会のお誘いがありました。普段なら適当な理由をつけて断るところですが、私は前向きに参加の返事をしました。するとボスママから幹事を任され……。
私はその日のうちに、調べた候補のお店をいくつかグループメッセージに送りました。その中からボスママたちが選んだのは、夫が働くフレンチレストランの1人6000円のランチコースでした。ランチにしては高額でしたが、ボスママたちも「たまにはぜいたくしよう」と盛り上がり、1人6000円を各自で支払うことを全員が了承したうえで、私は7人分の予約を入れました。
夫にそのことを伝えると、「じゃあ俺がみんなの差額分をおごるから、一番いいコースを予約しなよ! 娘がいつもお世話になってるし、これからもよろしくって意味で!」と言ってくれたのです。そのため私は、1人6000円ではなく、1人1万円のランチコースを予約しました。私も、これをきっかけにボスママたちとの関係を改善できればと思っていたので、当日は夫にありがたく全員分の差額をごちそうしてもらって、驚かせようと考えたのです。
仲間外れを狙った悪質な罠
ランチ会当日。12時の予約時間の少し前に店へ向かうと、すでにボスママたちはお店に集まっていました。スタッフに案内されて個室に入ったのですが、ママ友たちは私を見てクスクスと笑い始めます。その理由は、部屋に入ってすぐにわかりました。
私は7人で予約したはずでしたが、テーブルには6人分の椅子とカトラリーしか用意されていなかったのです。私が予約の手違いかと焦っていると、ボスママが信じられないことを口にしました。
「あなたが7人で予約したって言うから、私がお店に電話して、6人の間違いだって訂正しておいてあげたの♡ この会への参加は友だちだけよ? 予約係さん♡」
どうやらボスママは、ランチ会の数日前にお店に電話し、予約人数を6人に変更したうえ、予約の代表者も自分に変更していたようです。
「予約を頼まれただけなのに、参加するつもりだったなんて図々しい〜」
「のこのこ来ちゃって恥ずかしい人よね」
取り巻きのママたちも、手を叩いて私を嘲笑しました。彼女たちは、最初から私に恥をかかせるために幹事を押しつけたのだと、ようやく悟りました。スタッフがすぐに椅子を持ってきてくれて、「厨房に確認したところ、もう1名様分ご用意できます」と声をかけてくれました。しかし、こんな人たちと食事をする気にはなれません。
「そうですか。帰っていいんですね? では私は、友だちではないようなので帰りますね」
私は冷静にそう告げ、足早にレストランを後にしました。店を出てすぐ、私は夫にメッセージを送りました。すると夫はすでに事情を知っていました。私たちを案内したスタッフがボスママたちの発言を聞いており、「お客様同士でトラブルが起きているようなので、対応に注意してください」と店内で状況を共有していたそうです。私が帰ったと知った夫は、「そんなことをした人たちに俺がおごる必要はない」と言い、予定していた差額の負担を取りやめました。
ボスママを黙らせた予想外のひと言
それから約2時間後。この日は学校が早く終わる日で、娘が以前からボスママの娘・Aちゃんと遊ぶ約束をしていました。娘たちは学校帰りにわが家で遊んでいました。すると突然、インターホンが連打されたのです。モニターを見ると、真っ赤な顔をしたボスママの姿が映っていました。
玄関を開けるなり、ボスママが「1人1万円もしたじゃない! 6000円のコースって話だったじゃない!?」と怒鳴り込んできました。私は冷静に、「実は、あの店で夫が働いているんです。本当は皆さんの分の差額を夫が出してくれる予定でした。でも、今日のことを知って『そこまでしてごちそうする必要はない』と取りやめたんです」と説明しました。
それに、勝手に予約人数を変更したのはボスママです。夫の店では、予約人数を変更する際にはコース内容についても確認することになっているそうで……。
「私を省くことで頭がいっぱいで、店員さんから『1人1万円のプレミアムランチコースで、6名で間違いないか』と確認されたのに、『それでいい』と答えたんじゃないですか?」
そう聞くと、ボスママは「あ……」と漏らしました。私を仲間外れにすることばかり考えていて、自分が1万円のコースを了承したことを、そこで思い出したようです。しかしすぐに勢いを取り戻し「そもそもあなたみたいな地味な人が私たちのグループに入れるわけないでしょ? 身をわきまえなさいよ! あなたが勝手に予約したんだから差額分を払いなさいよ!」と言い出し……。
すると、騒ぎを聞きつけて、リビングから娘たちが顔を出しました。怒りに震える自分の母親を見たAちゃんは、悲しそうな顔をして、ぽそっと言いました。
「ねえママ、Bちゃん(娘)ママのこと仲間外れにしたの? どうして? 自分がされて嫌なことは人にしたらダメなんだよ?」
純粋なそのひと言を聞いた瞬間、ボスママは青ざめて口をつぐみました。ボスママは気まずそうに目を泳がせ、「帰るわよ」とAちゃんの手を引き、逃げるように去っていきました。
◇ ◇ ◇
大人が、それも子どもの前で、誰かを仲間外れにしたり、誰かに恥をかかせようとしたりするなど言語道断。子どもは、親が思っている以上に親の言動をよく見ているものです。「自分がされて嫌なことを人にしない」という当たり前の思いやりを、まずは大人が態度で示すことが大切ではないでしょうか。親として、大人として、子どもに見られて恥ずかしくない生き方をしたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。