兄には社長令嬢、僕には農家の娘
母は「お兄ちゃんは社長令嬢とのお見合いが決まったの!」とうれしそうに声を弾ませました。一方、僕の相手は農家の娘だといい、父は「まあ、お前にはそのくらいがちょうどいいだろ」と笑います。兄も「お互いお似合いの相手ってことだな」とニヤニヤしていました。
腹は立ちましたが、相手に罪はないと思い、僕は会ってみることにしました。お見合い写真のA美は、素朴でかなり地味な印象。しかし実際に話してみると、とても穏やかで気づかいのできる人でした。
A美は、家族で農業をしていることに誇りを持っていて、仕事について話すときの笑顔がとても魅力的です。僕たちはすぐに意気投合し、その後も何度か会ううちに自然と交際へ発展。やがて僕たちは、結婚を決めました。
一方、兄も社長令嬢であるB子とのお見合いが順調に進み、婚約することに。外では気の利くやさしい男性を演じるのが得意な兄は、B子の前でも感じよく振る舞っていたようです。
両親は「さすがお兄ちゃん!」と大喜びでした。
両親が婚約者まで比べ始めて!?
後日、お互いの婚約者を交えて家族で食事をすることに。
そこで初めてA美と対面した両親と兄は「え……あの写真の娘さん!?」と驚いた様子でした。お見合い写真とは違い、A美は明るく華やかな雰囲気だったからです。
母は驚きながらも、「まあでも、農家の娘さんなのは変わらないものね。B子さんとは住む世界が違うわ」と続けます。兄も得意げに、「俺は社長令嬢と結婚するんだからな」と口にしました。
すると、それまで黙っていたB子が表情を曇らせました。
「さっきから気になっていたんですが、どうして弟さんたちにそんな言い方をするんですか?」
「あなたとは結婚できません」
両親はきょとんとしています。母が「だって事実でしょう? あなたは社長令嬢なのよ」と答えると、B子はさらに険しい表情に。
「もしかして、私のことも父の会社や家柄だけで気に入ったんですか?」
兄は慌てて否定しましたが、焦るあまり「君はA美さんとは違うよ。育った環境だって、家柄だって全然違うんだから」と墓穴を掘ってしまったのです。
B子はしばらく黙ったあと、静かに告げました。
「弟さんを見下して、私のことも家柄で判断する人とは結婚できません。婚約は解消させてください」
その瞬間、兄の顔から笑みが消えました。
今さら僕たちにすり寄ってきて…
兄の婚約が破談になってしばらくすると、両親は僕とA美に急にやさしくするようになりました。「A美さんって本当にしっかりした子よね」「今度、ご実家にもあいさつに行かないとな」と、これまでとはまるで違う態度です。
あまりの変わりように僕はあきれてしまい、「今さら都合がよすぎない? 今までずっと兄貴だけ大事にしてきたんだから、これからも兄貴を頼ればいいだろ。僕たちのことは放っておいてよ」と告げ、しばらく両親とは距離を置くことにしました。
その後、僕とA美は結婚。僕は仕事を続けながら、休日にはA美の実家の農作業を手伝っています。家族みんなで汗を流し、笑いながら食卓を囲む時間は、僕にとってとても居心地のいいものです。
ある日、A美が「最初のお見合い写真、かなり地味だったでしょ?」と笑いました。僕が「うん。でも話してみたら、すぐに素敵な人だってわかったよ」と答えると、A美は照れくさそうに笑います。
A美と出会えたのは、僕にとって本当に幸運でした。これからも先入観にとらわれず、目の前の相手ときちんと向き合っていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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