親友から突然告げられたこと
私たちの農園では、パート従業員も交えて定期的にミーティングを開き、立場にかかわらず意見を出し合っていました。ところが、その日の親友はどこか様子が違いました。私が「何かあった?」と尋ねると、親友はしばらく黙った後、こう切り出しました。
「会社も立ち上げて3年になるでしょ。私、そろそろ共同経営をやめたいのよ」
突然の話に、私は言葉を失いました。親友によると、別の方法でトマトを栽培する事業の話を知り、自分1人で新しい会社を始めたいと考えているとのこと。そして、さらに耳を疑うようなことを言ったのです。
「ずっと思っていたのよ。社長は私1人で十分だって。自分の会社を作ってやってみたいの。社員にも何人か声をかけてるから、そっちは残ったメンバーで頑張って」
すでに新会社の準備を進め、私に相談する前から社員たちにも話をしていたことに、私は大きなショックを受けました。私に何の相談もないまま話が進んでいたことに、まるで裏切られたような気持ちになりました。
もちろん、どこで働くかを決めるのは本人たちです。それでも、長く一緒に農園を支えてきた社員たちにまで先に話が進んでいたことには、寂しさと悔しさを感じました。
その後、私たちは会社の今後について改めて話し合い、専門家にも相談しながら、親友の退任や出資分などについて必要な手続きを進めました。こうして親友は会社を離れることになったのです。
残った仲間と農園を立て直すことに
共同経営を解消した後、親友は新しい会社を立ち上げました。そして、親友から声をかけられていた社員の多くも、それぞれ退職して新会社へ移ることに。農園には、私と数人の社員、そして以前から働いてくれていたパート従業員たちが残りました。
正社員の多くが抜け、一気に人手が減った農園。途方に暮れていた私に声をかけてくれたのは、長く農園で働いてくれていたパート従業員たちでした。
「私たちは残るわよ。今いる人たちで、できることからやりましょうよ」
「私たちだって、この農園をずっと見てきたんだから」
その言葉を聞き、私は落ち込んでいるだけではいられないと思いました。仕事の流れを見直し、残った人数でも無理なく続けられる体制を考えました。
すぐに以前と同じ状態へ戻ったわけではありません。人手が足りず、注文数を調整した時期もありました。それでも、品質を落とさないことを第一に、できる量を着実に生産していきました。
少しずつ新しい従業員も加わり、数カ月後には農園の仕事も落ち着いてきました。以前から取引のあった顧客から継続して注文をいただけたことも、大きな支えになりました。
長年一緒にやってきた彼女との決別はつらい出来事でしたが、一方で、農園を支えてくれている人たちの存在を改めて実感することになりました。
1年後、元共同経営者が訪ねてきて
共同経営を解消してから1年ほどたったころ、思いがけない人が農園を訪ねてきました。かつて一緒に会社を経営していた彼女でした。
そして開口一番、「勝手なお願いだとはわかってる。でも、もう一度ここの仕事に関わらせてもらえないかな。戻りたいの」と言ったのです。
私は驚きました。話を聞くと、新しい栽培方法では思っていたほど収穫量が安定せず、当初見込んでいた取引量を確保できなかったとのこと。事業計画の見直しを迫られているそうです。かつて「社長は私1人で十分」と言って会社を離れた彼女が、今度は困り切った様子で私に泣きついてきたのです。
私は「それはできないよ」と言って断りました。彼女は黙って私を見ました。私はさらに、こう続けました。
「今は新しい体制で農園が動いているの。私1人の判断で元に戻すことはできない。それに、新しい道を選んだのはあなた自身だよ。私たちも今の農園を守っていかなきゃいけないから」
かつて親友だったからこそ、困っている姿を見れば何も感じないわけではありません。しかし、再び農園の仕事に関わってもらうとなれば、私1人の気持ちだけでは決められません。現在働いている従業員や、農園の運営にも関わることです。
それを伝えると、彼女はしばらく黙った後、「そうだよね」と小さく答えました。そして、それ以上何も言わずに農園を後にしました。
人間関係と仕事は分けて考えるように
共同経営を解消したいと言われたときは、長い付き合いだっただけに、仕事上の決別以上のショックを受けました。
親しい相手であっても、仕事への考え方や将来像がずっと一致するとは限りません。今では、人間関係だけに頼るのではなく、お互いの役割や責任、今後の方向性について言葉にして確認することの大切さを感じています。
彼女とは別々の道を歩むことになりましたが、あの出来事をきっかけに、農園を支えてくれる人たちとの関係を以前より大切に考えるようになりました。
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大きな変化に直面したとき、これまで目立たなかった人の力や、日々積み重ねてきた仕事の価値が見えてくることがあります。今回の出来事では、多くの社員が離れた後も、残ったパート従業員たちが農園を支える大きな力になりました。肩書きや人数だけでは測れない、一人ひとりの存在の大きさを感じさせるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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