合コンで笑い者にされた私
その合コンには、私と同じ会社の社員が集まっていました。幹事と親しい営業部のC川部長も同席しており、私は上司の目が気になって、くつろげずにいました。
交際経験の話になり、私が「付き合ったことはありません」と答えると、同じ会社の企画部の女性が「一度も? 本当に?」と声を上げました。私が曖昧に笑ってやり過ごそうとすると、C川部長まで話に加わりました。
「こいつ、仕事でも押しが弱いんだよ。客の話を聞いて帰ってくるだけでさ。恋愛も同じなんじゃないか?」
隣にいた別の女性社員も笑いました。私は恥ずかしさと悔しさで、何も言えませんでした。
すると、同じ営業部で成績のよかったB田さんが、「その言い方は失礼ですよ。本人も困っているじゃないですか」と口を開きました。部長は「何を真面目になってるんだ。場を盛り上げてやっているだけだろ」と笑いましたが、B田さんは表情を変えませんでした。
「誰かを笑い者にしないと盛り上がらないなら、私は帰ります」
そして私にも「一緒に出ようか」と声をかけてくれました。私たちは自分たちの飲食代を幹事に渡し、店を出ました。帰り道でお礼を言うと、B田さんは「嫌だったよね。もっと早く止めればよかった」と答えました。私が気にし過ぎていたわけではない。その言葉に、少し気持ちが軽くなりました。
「話を聞くだけ」と言われた営業
後日、B田さんから「いつも、販売店で聞いた意見を細かくメモしてまとめているよね。それ、一度商品企画部のA子課長にも見てもらわない?」と声をかけられました。
私は商談の後、店の担当者から聞いた要望や、お客さまの反応を記録していました。部長からは「そんなことより注文を取ってこい」と言われていましたが、次の提案に役立つと思い、続けていたのです。
私は迷いましたが、B田さんの「そういうメモが大きなヒットを生むこともある」という言葉に背中を押され、A子課長に見てもらうことにしました。
A子課長は記録に目を通すと、「販売店で、こんな声が出ていたんですね」と言いました。私が書き留めていた使い勝手への不満や要望には、企画部でも把握しきれていないものがあったそうです。
「今、新商品の企画を検討しているんです。次の会議で、詳しく聞かせてもらえませんか?」
こうして私は、営業を続けながら、企画の打ち合わせにも参加することになりました。
営業先で拾った声が、新商品のきっかけに
会議では、販売店の担当者から聞いた話に加え、売り場で気付いたことも伝えました。商品の説明をすると、どんな質問が出るのか。購入を迷う人は、何を気にしているのか。何度も同じ店を訪ねる中で、担当者が「あの商品、その後こんな反応があったよ」と教えてくれることもありました。
私が残していたのは、要望だけでなく、実際に商品が選ばれる場面や、購入を見送られる理由がわかる記録でした。A子課長は「私たちが調べていた傾向と、売り場で起きていることがつながりました」と言ってくれました。
その後、企画部が調査していた情報と私の記録をもとに、開発・製造の担当者も交えて検討が進みました。私も販売店への確認などで協力し、数カ月後、新商品を一部の店舗で試験的に販売することになったのです。
後日、社内の会議で販売状況を報告した際、A子課長が「今回の商品は、彼が集めてくれた販売店の声をきっかけに、検討を進めたものです」と、私の取り組みを紹介してくれました。
会議の後、部長から「認められてよかったな」と声をかけられました。私はお礼を伝えた後、以前から言えずにいたことを話しました。
「それとは別に、合コンで交際経験と仕事ぶりを結びつけてからかわれたことは、つらかったです。今後はやめてください」
部長は気まずそうに目をそらし、「わかった。言い過ぎた」と答えました。
まとめ
私は、人前で笑われると、言い返せない自分にも問題があるのだと思っていました。けれど、B田さんが止めてくれたことで、嫌な思いをしても、黙ってやり過ごさなくていいのだと感じました。
提案が採用されたことは、自信につながりました。ただ、結果を出すまで、嫌な言葉を我慢する必要はなかったのだと思います。もし提案が通らなかったとしても、あの場で傷ついた気持ちは同じだったはずです。
今も、強く言い返すのは得意ではありません。それでも、自分が続けてきたことを簡単に否定せず、困ったときには信頼できる人に話してみようと思えるようになりました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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