妻と二人三脚で、赤字店が人気店に!
私は、昔ながらの伝統の味を守りつつ、若い世代にも興味を持ってもらえるよう、繊細かつ鮮やかな上生菓子や、和菓子には珍しい素材を組み合わせた新商品を次々と考案しました。
妻も「少しでも力になりたい」と、かわいらしい包装を提案してくれたほか、店頭での接客やSNSでの新商品の発信など、さまざまな面から店を支えてくれました。
そして数年後には若いお客様も増え、店は連日多くのお客様でにぎわう人気店へと生まれ変わったのです。
黒字化した途端、兄が「俺が継ぐ」
ところが、店が安定して黒字を出せるようになり、経営が軌道に乗ったころのことです。これまで店の手伝いなど一切してこなかった兄が、突然口を出してきました。
「長男の俺が、この店を継ぐ」
突然、そう言い出したのです。さらに信じられないことに、父まで「家業はやはり長男に継ぐべきだ」と兄の肩を持ち、私たちに相談することもなく、自分は経営から退き、兄に店を任せると決めてしまいました。兄は私に向かって、「今までご苦労さん。あとは俺に任せろ」とひと言。私と妻が何年もかけて立て直してきた店を、当然のように引き継ぐつもりだったのです。
妻はあまりに理不尽な話に怒ってくれましたが、私はこみ上げる悔しさをグッとこらえ、「わかった。あとはよろしく」とだけ言い残し、店を後にしました。
味も接客も悪化…兄の店から客が離れた結果
それから数カ月後。兄はさらに利益を増やそうと、和菓子に使う材料の質を落とし、手間と時間のかかる季節菓子も「効率が悪い」と次々に減らしていったそうです。
それだけではありません。店頭では常連客から商品について尋ねられても面倒そうに答えたり、忙しいときにはぶっきらぼうな態度をとったりと、接客も次第に横柄になっていったのだとか。
当然、そうした変化はお客様にも伝わり、「以前と味が違う」「接客まで変わってしまった」といった声が増え、私たちが大切にしてきた常連客も、次第に店から離れていったそうです。
一方そのころ、私たち夫婦は少し離れた地域に、念願だった自分たちの小さな和菓子店をオープンしていました。すると、その噂を聞きつけた以前の常連客の方々が、「あなたのお菓子をずっと待っていたのよ!」と次々に足を運んでくださったのです。
さらに味の評判が口コミで広がり、イベントや茶道教室などからも注文をいただくようになりました。こうして新しい店は、あっという間に多くのお客様でにぎわう人気店へと成長したのです。
店を奪った兄がついに懇願…私の答えは
そんなある日、とうとう客足が途絶え、経営が立ち行かなくなった兄が、焦った様子で私のもとを訪ねてきました。
「頼む、店に戻ってきてくれ! 俺の考えが甘かった。このままじゃ続けられない」
そう言って頭を下げる兄。しかし私は、静かにこう返しました。
「店は兄さんが継いだんだろ。今さら俺の腕を当てにされても困るよ」兄は、その言葉に何も言い返せませんでした。店を繁盛させていたのは、立派な看板でも「長男」という肩書きでもありません。職人として磨いてきた技術と、お客様に喜んでもらいたいという思いがあったからこそだったのです。
その後も客足が戻ることはなく、兄はとうとう店を畳むことになったそうです。一方、私はこれからも、一番の理解者である妻とともに、自分たちの味を楽しみにしてくださるお客様のために、心を込めて和菓子を作り続けていこうと思っています。
◇ ◇ ◇
店を支えてきた人の努力や思いを軽く考えてしまえば、お客様が離れたり、周りからの信頼を失ったりすることもありますよね。仕事でも家族の中でも、上辺だけで判断するのではなく、これまで積み重ねてきた努力や相手への敬意を忘れずにいたいですね。
【取材時期:2026年9月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。