元カノからの非情な追放
その日、僕は取引先の大手企業が主催する懇親会に招かれていました。会場で顔を合わせたのは、その会社に勤める元カノでした。
交際していたころ、彼女のわがままに振り回されることに疲れ、僕から別れを切り出しました。それを逆恨みしたのか、彼女は以来、下請け会社に勤める僕を見下すようになっていたのです。
すでに酔っていた彼女は、僕を見つけるなり大声を上げました。
「うわ〜! 元カレが懇親会に来るとか最悪なんだけど」
「下請けは場違いなんだから、帰ってよw」
近くにいた彼女の同僚たちまで面白がり、「下請けは帰れ!」「か・え・れw」とはやし立てる始末でした。
招かれて来たのに、どうしてこんな扱いを受けなければならないのか……。
上層部の人たちは別室で歓談していて、騒ぎを止める人もいません。悔しさをこらえて立ち尽くしていると、僕のスマホが鳴りました。
ライバル社では、思いがけない歓迎が
電話の相手は、元カノの会社と競合する大手企業の担当者でした。以前から、僕の現場での対応や仕事ぶりを評価してくれていた方です。
「今、近くでうちの懇親会をやっているんだけど、都合がよければ顔を出さないか? 君を役員にも紹介したいんだ」
思いがけない誘いに、気持ちが少し軽くなりました。僕はお礼を伝え、元カノたちのいる会場を後にしたのです。
ライバル社の会場に着くと、担当者が温かく迎えてくれました。紹介を受けると拍手が起こり、役員の方々も気さくに声をかけてくれたのです。
「君の活躍はいつも聞いているよ」
「ぜひ、次の大型イベントでも力を貸してくれないか」
用意された料理をいただきながら、仕事の話にも花が咲きました。
先ほどまでの扱いとは、まるで正反対です。会社の規模ではなく、日々の仕事を見てくれる人がいる。そのことが、何より嬉しく感じられました。

「今すぐ戻ってきて!」と電話が……
その懇親会の最中、元カノから何度も電話がかかってきました。席を外して出ると、先ほどとは打って変わって、焦った声が聞こえてきたのです。
「ちょっと! なんで勝手に帰ってるの!?」
「帰れって言ったのは、そっちだよね?」
そう返すと、彼女は慌てて言い訳を始めました。
「あんなの冗談じゃない! 上司が『彼はどこだ? 来週の大型イベントの最終確認をしたかったのに』って探してるのよ。お願いだから、今すぐ戻ってきて!」
実は、翌週にその会社が開く大型イベントでは、僕が現場の進行や機材の手配を担当していました。準備状況を把握している僕に、彼女の上司は確認したいことがあったのです。
僕を「下請け」と見下して追い出したものの、上司に居場所を聞かれ、ようやく事の重大さに気づいたのでしょう。
僕は落ち着いて答えました。
「『場違いだから帰れ』と言われたので、今日はもう戻りません。イベントは契約どおり責任を持って対応します。確認事項があれば、上司の方から直接ご連絡ください」
そして、もう一つ伝えました。
「ただ、今回のことは自分の会社にも報告して、今後の対応を相談します。冗談では済ませられません」
そう告げて、電話を切りました。
仕事を見てくれる相手と
その後、僕は引き受けていた仕事を進める一方、自分の会社にも懇親会での出来事を報告し、会社を通じて彼女の上司にも伝えてもらいました。
下請け先の担当者を侮辱し、信頼関係を損ねた元カノは、社内で厳重注意を受けたそうです。
一方の僕には、仕事ぶりを評価してくれる新たなパートナーとのつながりができました。
今回のことで、仕事をするうえでは会社の規模以上に、お互いを尊重できる関係が大切なのだと感じました。これからも、そんな相手とのご縁を大事にしながら、一つひとつの仕事に向き合っていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者が特定されないよう、固有名詞などに変更を加えながら構成しています。