作業着姿の私を見下す元カノ
教室に到着し、出迎えてくれた女性講師を見て、私は思わず息をのみました。なんと、かつて交際していた元カノだったのです。彼女とは金銭感覚が合わず、別れた過去がありました。
彼女は私の作業着姿を見るなり、あからさまに嫌な顔をしました。「相変わらずそんな格好で働いてるの?」と鼻で笑い、娘が体験レッスンを楽しみにしていると知ると、「うちは有名な音楽教室なの。月謝も発表会もお金がかかるのよ。あなたみたいな貧乏人には無理でしょ(笑)」とばかにしてきたのです。
私は「今日は仕事が長引いて、着替える時間がなかったんだ。でも、服装だけで貧乏だと決めつけるのはおかしいだろ?」と言いましたが、彼女は聞く耳を持ちません。挙げ句の果てには「ほかの保護者に見られたくないから、帰ってもらえる?」とまで言い出す始末。
腹が立ちましたが、娘にこれ以上嫌な思いをさせたくないと思い、「じゃあ、いいです」と教室を後にしようとした、そのときでした。
私を見て驚く教室長!その正体は…
「お待ちください!」教室の奥から年配の男性が駆け寄ってきました。そして、私の顔をじっと見つめると、驚いたように声を上げたのです。「もしかして、◯◯君(私の名前)じゃないか!?」
実はその男性は、私が幼いころに通っていたピアノ教室の先生で、現在はこの教室の教室長を務めていたのです。
「君がまたここに来てくれるなんて! しかも、今度は娘さんを連れて!」と感激する教室長。私が幼いころ、家庭の事情でピアノを辞めざるを得なくなったものの、誰よりも熱心に練習に励んでいたことを、今でも覚えていてくれたのでした。
しかし、その様子を面白くなさそうに見ていた元カノが、「でも先生、この人の服装を見てください。うちの教室にはふさわしくないですよね」と口を挟みました。すると、教室長の表情が一変して……。
元カノを一喝!教室長の言葉に…
「君は何を言っているんだ!?」私から事情を聞いた教室長は、元カノが服装だけで経済状況を決めつけ、体験レッスンを断ろうとしたことに激怒しました。
「どんな仕事をしているかで人の価値が決まるわけじゃない。ましてや、子どもが音楽を学ぶ機会を勝手に奪おうとするなんて、講師としてあるまじき行為だ!」
教室長に厳しく叱責され、顔を真っ赤にしてうつむく元カノ。慌てて小さな声で謝罪してきましたが、私は静かに「俺のことをどう思おうと勝手だけど、娘の前で人を見下すようなことは言ってほしくなかったな」とだけ伝えました。
その後、教室長の計らいで、娘は無事に体験レッスンを受けられることに。教室長から「お父さんは昔、とてもピアノが上手だったんだよ」と聞いた娘に「パパも弾いて!」とせがまれ、私も久しぶりにピアノの前に座ることになりました。
少し緊張しながら、昔よく練習していた曲を弾き始めると、娘は目を輝かせて聴き入っていました。演奏を終えると、「パパ、すごい! 私もパパみたいに弾けるようになりたい!」とうれしそうに声を上げたのです。
かつて大好きだったピアノを、今度は娘と一緒に楽しめる。娘の満面の笑顔を見ながら、私は心からうれしく思ったのでした。
◇ ◇ ◇
見た目だけで相手の経済状況や人柄を決めつけることは、偏見や差別につながりかねません。ましてや、子どもが楽しみにしていた学びの機会を、大人の偏見によって奪うようなことは避けたいものです。相手の気持ちや立場を考え、自分の言動が周囲に与える影響にも気を配りたいですね。
【取材時期:2026年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。