パパの育児休暇が2022年4月から大きく変わる!?
「実は日本の育休制度は、世界的に見てとても充実しているんです。期間や手当ては世界トップレベル。こんなにいいものがあるのに取ってない。取らないと損。もったいないです」と話すのは大阪教育大学教育学部教授、小崎恭弘先生。小崎先生は保育士の経験があり、自身も3人の男の子の育児で育児休暇を取得した経験があります。
しかしそんないい制度があっても「取りづらい」という根強い日本の文化があり、あまり活用されてきませんでした。今回の育児・介護休業法の改正で何が大きく変わるのでしょうか。
「これまで従業員が企業にお願いして取っていた育休ですが、4月から企業側から『ぜひどうぞ』と促すことが義務化されたんです。10月からは“パパのための産休”もスタートします」
改正の大きなポイントは“パパの休暇”にフォーカスしている点です。
「1992年から育休は制度としてあるけれど、何度か改正されてきました。意外かもしれませんが、当初から男女ともに取れる制度だったんです。ところが実際の取得率をみると、圧倒的に女性が多い。僕が育休を取った25年前は、男性の取得率は1%以下でした。その背景には男性は仕事、女性は家事育児という社会的な分業があったんです 」
出典:令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-(厚生労働省)
しかし2000年ごろを境に、共働き世帯が急増。現在は、圧倒的に共働きが多い状況となり、共に働き、共に育てるというスタイルがスタンダードモデルとなりました。
出典:令和3年版厚生労働白書-新型コロナウイルス感染症と社会保障-(厚生労働省)
「女性の社会進出が推奨されて、『ぜひ働いてください』ということになったのですが、気を付けないと女性ばかりが家事・育児・介護の 負担を強いられてしまう状況でした。女性の社会進出と男性の家庭進出はセットであるべきなんです。これは働いている人が自分の家族を大切にするための法律です。今回の改正で父親の立場を狙い撃ちしているのは、これまで母親の負担が重すぎたからです」
「産後うつ」や「産後クライシス」という言葉が飛び交う社会状況は、結果的に深刻な少子化を招きました。厚生労働省によると、女性1人が生涯のうちに生むと見込まれる数である「合計特殊出生率」は、2020年で1.34まで低下。育児不安の要因の一つが「男性が育児に関われていない」という現実でした。
出典:令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況「結果の概要」(厚生労働省)
次にどのように改正されたのか、具体的なポイントをみていきましょう。
新しい制度のポイントは?
こうした日本の状況を打開すべく、育児・介護休業法が改正されました。具体的な制度改正のポイントは大きく2つあります。
1)企業側から育休を打診することが義務化
従来の育休制度は「会社の理解がない」「言い出しづらい」という取りづらい文化があり、あまり活用されていませんでした。そんな世の中の流れを、がらっと変える仕組みが導入されました。
今まで従業員からお願いしていた育休取得が、会社から確認することが義務化され、まったく逆の流れになったのです。
改正された育児・介護休業法は、4月から段階的にスタートします。4月から始まるのは企業側から従業員への「育休の周知と取得の意向確認」です。
「社員から会社側に妊娠や出産の申し出があった場合、会社は『新しい制度や育休ありますよ』『育休を取りませんか?』とアプローチしないといけない。それが企業に義務付けられたんです。これは状況が180度転換したといってもいいでしょう。上司や同僚が『男親なのに取るの?』と言うのはハラスメント。それも明確に禁止されています」(小崎先生)
2)「パパの産休」が10月にスタート
今回の改正のもう一つの目玉が、「パパの産休」とも言われる「産後パパ育休」の新設です。育休とは別の産休で、新しく創設されました。
特徴は5つ。
1.パパも「産休」がもらえる!
2.産後8週間以内に4週間まで取得可能
3.休業の2週間前までの申し出でOK
4.2回に分割して取得することが可能
5.労使協定を結んでいれば、休業中に働いてもOK
そのほか、育児休暇も今年10月から次の表の通り改正されます。
企業側の本気度が試される
先ほどの表のような新しい仕組みが4月から段階的に導入されますが、企業側はどんな課題に直面するのでしょうか。
「当然ながら企業の仕事は煩雑になりますね。育休の申し出は原則1カ月前までですが、パパの産休は2週間前まで。育休の取り方も多様化します。かなりフレキシブルになるので、働き方やキャリアのあり方もフレキシブルになります。誰一人として同じ生活パターンはあり得ません。来年4月からは大企業は育休取得状況の公表が義務化されますから、企業側の本気度が試されるでしょう」
この法律の正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」。その名の通り「育児」と「介護」がセットになっているところがポイントだと小崎先生は言います。
「これから大介護時代がやってきます。要するに、部長クラスの年齢の人が親の介護に直面するんです。育休は突然始まらないし、子どもの成長に合わせて終わりが見通せる。でも介護はいつ始まるのか、いつ終わるのかも分からない。だから今は、子育て世代だけではなく、誰もが働きやすい職場を作っていく時期です。仕事が属人化しないようチームがトレーニングするタイミングです 。育休を単に個人のものとするだけでなく、会社や組織の業務や働き方の見直しに活用できれば良いですね。」
これからはパパも“産休”を取る時代。一緒に新生児期を過ごすことで、制度を超えたメリットもあるといいます。
「育児のスタートに関わることで、子どもを育てる癖がつくんです。直接母乳をあげることこそパパにはできないけど、それ以外ならパパにもできます。子育ては大変だけど楽しい。こんな楽しいことを、ママがひとりじめするのはもったいない! 覚悟と責任をもって“パパ”を経験してほしい」
取材・文/大楽眞衣子