夫婦げんかを通して社会の争いを学ぶ
「社会にはけんかや争いが必ずあります。これから社会で生きていく子どもたちにリアルなけんかを見せ、具体的なやり方を見せて教えていくことは大切なことです」と語るのは、子育てにおける夫婦の在り方について詳しい大阪教育大学教育学部教授の小崎恭弘先生です。
「一切けんかをせず、“清く正しく美しく”の環境で子どもが育つことがいいとは限りません。家庭という集団の中で意思を表明する、嫌なことを嫌と言える、言い返す力を家庭で育むことも大事です」
子どもに見せたい言い争い&仲直り
とはいえ、やはり子どもの前で夫婦げんかをすることに、ためらいを感じる人もいるようです。でも、けんかをしない代わりにギリギリまで我慢をしたり、冷戦が始まったりするようでは本末転倒です。自己主張の方法、意思の伝え方、相手とのやりとり、仲直りの仕方など、けんかから学ぶことは多そうです。
「夫婦で口を聞かない冷戦になるほうが、子どもにとってはつらいことなんです。暴力や暴言が入るようなけんかはもちろんNGです。でも、争いは社会で起こることなので、家庭で見て経験しておく必要はありますね。ただし、一番大事なのは仲直りまで見せてあげることです。そして人はときに言い争ったり思い違いをしたりすることもあるけれど、必ずそのあとは仲良くなれるということを子どもに伝える。それが夫婦げんかをすすめる理由です」(小崎先生)
こんな夫婦げんかはゼッタイNG
ただし、どんなけんかもOKというわけではありません。場合によっては面前DVとなり、児童虐待になります。子どもが見ていることを強く意識し、じょうずな夫婦げんかが求められます。ゼッタイNGな夫婦げんかについて、小崎先生に伺いました。
ゼッタイNGな夫婦げんか
・手を上げる(暴力)
・人格を損なうような言葉を使う(暴言)
・収入について責める
・容姿を責める
・相手(妻、夫)の親の悪口を言う
・性格を否定する
・けんかが長引く
・子どもにパパ/ママの愚痴を言う
・子どもを味方につける
などです。子どもに愚痴を言う、子どもを味方につけることは、ともすればやってしまいがちですが、「子どもに呪いをかけることと同じこと」と小崎先生は言います。
「子どもはパパもママも両方大好きなんです。だからどっちの味方? と迫られると、2重の苦しみが生まれます。呪いって解けませんから、これは絶対にダメです」
けんかのゴール=仲直りは子どもの目の前で
夫婦げんかの目的は、勝ち負けではありません。決して相手を打ち負かすことが目的ではありません。最終的にお互いが理解し合うことがゴールです。つまり、「仲直りまでがけんか」なのです。
「夫婦の間に多少思い違いがあっても、それを乗り越えたら仲良くなれるところを子どもに見せてあげてほしいです。子どもが寝るまでに仲直りできなくて、子どもが寝てから仲直りではダメです。子どもの目の前でけんかして、すぐに否を認めて謝って仲直りする。こうした一連のやり取りを家庭の中で見せてあげてほしいですね」(小崎先生)
ルールに基づくけんかはヒートアップ防止に
こうして夫婦のいざこざから解決を通して、子どもはコミュニケーション力を学びます。
「コミュニケーションにはいろんなレパートリーがあったほうがいい。夫婦げんか、きょうだいげんか、親子げんかなど、家族のけんかで学ぶことは多いです。ただ、ずっとけんかが続くとお互い疲れてしまいますよね。なので予めけんかのルールを決めておくことをおすすめします」と小崎先生は話します。
『言い合いになったらやめようね』『どっちかがごめんと言ったら、そこで喧嘩は絶対に終わりにしよう』など、夫婦間でルールを作っておくと、長引かず、冷静に仲直りできるかもしれません。家庭は社会の縮図。夫婦げんかも社会勉強の一つになりそうです。ただし、子どもを巻き込むことはゼッタイNGなのでご注意を……。
取材・文/大楽眞衣子