殿、降臨
夫方の親戚の法事に遅刻してしまった私たち。初めて会った方々へのあいさつをひと通り終えたとき、「おぉ、コレが甲斐性なしと結婚したコか、重役出勤だ」という大声が聞こえ、振り返ると初対面のおじいさんが…….。たとえ今が昭和だとしても時代遅れなのではと思うレベルの暴言に、初めは自分が言われていると気付かなかったのですが、おじいさんはまっすぐと私を見つめていました。
その人が誰かもわからなかったので、ヘラヘラと笑ってその場をやり過ごした私。あとで聞くとそのおじいさんは、義父のお姉さんの夫でした。そして、彼に付けられたあだ名が「殿」だということもそのとき知ったのです。
正面突破だけが正義じゃないみたい
どうやら女の私にはさほど興味がないようで、殿の次なる標的は私の夫となりました。夫の肩を抱いて「甲斐性なしも、ちっとは嫁に食わしてやってんのか」「お前も年だけは立派にとってきたな」などなど、悪態をつきまくる始末。
私は次第にムカつき始め、殿の鼻を明かしてやりたいような気分になったものの、普段は他人に対して意見をまっすぐ言うタイプの夫が、妙に殿の機嫌をうかがいながらヨイショする様子を見てなんとなく雰囲気を察し、怒りを抑えて黙っていることにしました。
和を尊ぶ
その後も殿の勢いは止まらず、私たち夫婦の反応に飽きると次の標的を見つけては「2人目を早くつくれ」「家も買えない家庭は恥ずかしい」「女は引っ込んでろ」と言いたい放題。どこからツッコんでいいのやら……といった具合の時代錯誤感満載の発言にめまいを覚えた私は、他の親戚たちの反応を見ることに。
すると、まるで合気道のように殿の攻撃をかわし、右から左へと受け流す親戚たちの団結が見えてきたのです。「殿、絶好調じゃん」「あーはいはい」とテキトーな相槌を打ちながら、連携して殿を帰りのタクシーへと誘導する親戚一同の手際のよさに、一朝一夕にはできない『家族』という団体の結束力を感じ、ただただ驚きました。
面倒な親戚へのオトナな対処法を目にして、まっすぐに腹を立てていた自分の幼さに、心の中で苦笑しました。あらためて、家族というのは持ちつ持たれつ、適度に間隔をとって折りあいをつけていくものなんだと感じ、私もまたひとつオトナの階段を上れたような気がします。
著者/つちやです
イラスト/おんたま
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