1日5000歩~8000歩、歩くことが予防に
――下肢静脈瘤の予防法や改善方法を教えてください。
佟先生 下肢静脈瘤を予防・改善するためには、下肢の静脈にかかる負担を減らすことと、足から心臓に向かって血液を戻す静脈の機能をサポートすることが大切です。予防法として有効なのが下肢の運動です。
なぜかというと、足の静脈は筋肉に囲まれているからです。歩いたり足首を動かしたりするとふくらはぎや太ももの筋肉が収縮し、静脈は周囲の筋肉に押しつぶされて血液が心臓に向かって押し上げられます。この働きを「筋肉ポンプ」と呼びます。よく“足は第2の心臓”といわれますが、この言葉は下肢の筋肉ポンプの働きを表現しています。
下肢の運動として最適なのが歩くことです。「ウーマンカレンダー」世代の女性でしたら、1日5000歩~8000歩程度歩くのが良いでしょう。私のおすすめはテレビを見ながらその場で足踏みをする「ながら歩き」です。この方法なら外に出かけなくても下肢の運動をすることができます。
例えば、親御さんが下肢静脈瘤の場合、遺伝的に下肢静脈瘤を発症する可能性は高くなります。運動をして下肢の筋肉を鍛えることは、発症を遅らせたり重症化の予防にある程度の効果を発揮すると考えられます。
また、下肢の血流が滞らないような生活を心がけることも下肢静脈瘤の予防に有効です。座って仕事をする時間が長い方は、30分から1時間に1度は立ち上がって歩くなど足の筋肉を動かすようにしてもらいたいものです。また、1日の仕事を終えて帰宅して休むときは、足を台などに乗せてできるだけ心臓に近い高さに上げると下肢の血液が心臓に戻りやすくなります。
セルフケアは症状の改善に有効
――下肢静脈瘤のセルフケアとして、あお向けになって手足を上げて小刻みに揺らす「ゴキブリ体操」や、座りながらかかとを上げ下げする運動、足首からふくらはぎにかけてさすり上げるような足のマッサージなども有効でしょうか?
佟先生 ゴキブリ体操は、足が心臓より高い位置になることで、下肢にたまった静脈の血液が心臓に戻りやすくなります。さらに、手足を小刻みに揺らすことで毛細血管の血流も良くなりますから、より心臓に血液が戻りやすくなるという効果もあります。
かかとを上げ下げすることはふくらはぎを動かすことですから、効率良くふくらはぎの筋肉ポンプを活用することができます。足を下からさすり上げるようなマッサージには下肢の血流を促す作用があり、血液を心臓に押し戻すためのサポートとなります。
いずれの方法も下肢静脈瘤の症状の改善には有効ですから、毎日の生活で実践することはまったく問題ありません。ただし、下肢静脈瘤に限らず、病気の予防と症状の改善は別ものです。下肢静脈瘤の予防という意味では、定期的に運動する習慣をつけることが大切です。
下肢静脈瘤は早期発見・早期診断・早期治療が大切
――先生が下肢静脈瘤の治療をした患者さんからは、どのような声が届いているのでしょうか?
佟先生 治療の直後では、こむら返りがなくなったという声は圧倒的に多いですね。就寝中にこむら返りが起きると目が覚めてしまい、結果的に睡眠の質が悪くなってしまいますから。しっかりと睡眠が取れることで生活の質が上がっているようです。足の浮き出た血管が気になっていた方は、足を出すことに抵抗感がなくなり「スカートがはけるようになった」「プールに行けるようになった」と喜んでいます。
――最後に、ここまでの記事を読んで「もしかしたら、下肢静脈瘤かもしれない……」と不安を覚えた方に向けてお言葉をお願いします。
佟先生 下肢静脈瘤は良性の病気なので、全身の健康に大きな影響を及ぼすことはありません。ただし、自然に治ることはないため、治療をしないと確実に進行していきます。下肢静脈瘤の診断をつけるためのエコー検査は短時間で終わりますし、痛みもありませんし、保険適用となりますから。気になる症状がある方は、血液外科や下肢静脈瘤クリニックでエコー検査を受け、早期発見・早期診断・早期治療を実践してもらいたいと思っています。
※解説内容はすべて、大阪静脈クリニック・佟暁寧先生の見解によるものです。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
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取材・文/熊谷あづさ
ライター。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。