比奈子(ひなこ)は、民間の分析機関に勤務する研究員です。夫の剣雄(けんゆう)は2年前に大手企業に転職、超一流のサラリーマン……きどりで働いています。何を勘違いしたのか、剣雄は自分が職業ヒエラルキーの頂点に君臨していると思っている様子。テングになった剣雄は、比奈子の仕事や稼ぎを見下してきます。自分の仕事に誇りを持っている彼女は、夫に何を言われてもサラリと受け流していますが、そろそろそれも我慢の限界を迎えそうで……。
大企業に転職すると夫は…
この春、剣雄のいとこが公務員として働き出すことになりました。ついこの前まで小学生だったのに……。いとこの成長に目を細めて昔話をしていたはずが、いつの間にかまた職業ヒエラルキーの話に。結局最後は自分が優秀な人間だと褒めたたえる夫に、比奈子はイライラをつのらせます。しょせん剣雄の示すピラミッドは、独断と偏見で作られたものであり、それに比奈子は納得がいきません。
たしかに、剣雄が名の知れたサプリ業界の大手企業に転職して、周りの目が変わったことは否定できません。給料も高くなり、比奈子としても助かっていることは事実です。しかし、「もうちょっと俺に感謝しろよ?」などと言ってくる夫の話を受け流すには、そろそろ限界が。
「お前の収入なんて微々たるものだから、働く必要なんてない」
離職を勧めてくる夫に、とうとう比奈子は猛反発を始めます。今の仕事が好きで、誇りを持って働いている比奈子。多少給料は低くても、社会に必要とされている仕事だからです。剣雄の会社も、彼女のような研究員の検査や分析に支えられています。けれどそんな話を聞いても、給料が少ないということはピラミッドの底辺だ、価値のない仕事なのだと、剣雄は侮辱し続けました。
「剣雄って、転職してからすっかり嫌な人間になったね」 給料でその人の価値を決め、何を言っても嫉妬だとはねつける。いろいろな職業の人が経済を支えており、そのひとりひとりが大切で、職業に優劣なんかないということにも気づかない。比奈子は、夫のつまらない自慢話に付き合いきれないと思い、「もう私に話しかけないで」と夫に言いました。
衝撃の事実を夫に伝えるが…
それ以来、比奈子はだんまりを決め込みました。なかなか口を利かない妻に、まだあれやこれやひどいことを言ってくる剣雄。反省しているそぶりはありません。
「女は良いよな、養ってもらう側でw 」
「あんたの会社倒産させてごめんねw 養ってあげよっか?w 」
「? 」
比奈子は、まもなく明るみに出る衝撃の事実を告げました。けれども、安定の一流企業が潰れるはずはないと、まったく比奈子の話を信じない剣雄。「仮に無職になったとしても、お前の世話になるなんてごめんだ」 そして、こう言ってしまったのです。「お前に養ってもらうくらいなら離婚するわw」
「離婚届、用意しておいたよw」
比奈子の予想通り、剣雄の勤めていた会社は倒産。なんと彼の会社のサプリから国内で禁止している成分が見つかり、刑事事件にまで発展したのです。もちろん、それを発見したのは比奈子の会社で、彼女もその発見に貢献したひとりでした。比奈子の話に耳を傾けず、さらには会社では下っ端の地位ですからこんな話があったとは知る余地もありませんでした。無職になった剣雄は、彼の言うピラミッドの底辺よりも下に位置することになりました。一方、比奈子の会社は分析技術が高く評価され、名前も売れて業績が良くなり、ボーナスがUP。剣雄は比奈子にすがろうとしましたが、比奈子はあの言葉を忘れていませんでした。
「私に養ってもらうくらいなら離婚するんでしょ? 離婚届、用意しておいたよw 」
人間の価値は、給料の額で決まるだなんて、夫はとても偏った考えを持っていたようです。そして暴言が現実になってしまいました。身から出た錆とはまさにこのことですね。