専業主婦の百海(ももみ)はおおらかな性格で、ご近所付き合いも上手。隣家の主婦である舞(まい)とも仲良しです。おおらかに接するのは夫の銀太(ぎんた)に対しても同じで、夫が休日に大寝坊しても、一日中ゲームに興じても、あまり文句は言いません。この週末も、寝ている夫を起こさないように、ひとり静かに実家に出かけました……。
突然の雨
その日は妹が産まれたばかりの娘を連れて里帰りするというので、百海も近所にある実家へ駆けつけました。そして妹たちが帰るころ雨も降り出したため、同じタイミングで百海も帰ることに。銀太は気を利かせて洗濯物を取り込むようなことはできない人なので、焦って帰宅したのですが、家の中に入れません。慌てて出かけたので、鍵を持たずに出てしまったのです。普段、銀太は在宅中は鍵をかけていないので、大丈夫だと思ったのですが、今日に限って鍵がかかっているのです。
「夕方に帰るって伝えたから、どこかに出かけてしまったのかな」
そう思って電話をしますが、つながらず。ひとまず実家に戻りました。
百海は舞に連絡し、自分のうちのベランダをのぞいて、洗濯物が無事か確認してもらえないか相談しました。快く承諾した舞が洗濯物を確認したところ、案の定のありさまで、百海はがっかり。
しかしそれ以上に気になったのは、夫のことでした。胸騒ぎがするので、なんとか部屋の様子を確認してもらえないかと伝えたところ、これまた快く舞は承諾してくれました。
「これはまずい……」
「何か見えたの?!」
銀太が部屋で倒れていないか心配していた百海でしたが、舞はなかなか何を見たか教えてくれません。やっとのことで教えてくれたのは、まさかの事態でした。胸騒ぎは気のせいじゃなかったけれど……。休日の過ごし方だけでなく、女性関係までだらしなかったとは思いもしなかった百海でした。
彼女がおおらかになれるのも、ここまでだったのです。嫌なものを見せてしまったことに平謝りしながらも、頼りの舞にわが家のビデオ撮影までお願いした次第です。
「さぁ鉄槌を下すときよ」
鉄は熱いうちに打て
30分後、やっと銀太から連絡がありました。
「今忙しくて手が離せないんだけど……」
「知ってる、不倫中でしょ? 洗濯物入れといて」
「え……? 」
百海が浮気相手の容姿をズバズバ言い当てるので、銀太は焦り出しました。これまでの経緯を話し、証拠のビデオまで撮影してあること、それを百海も百海の両親も見て確認していることを告げると、銀太は大騒ぎ。怒り心頭の百海の親が銀太の両親にも連絡したことがわかると、さすがに謝罪を口にし始めましたが、あとの祭りでした。今からみんなで乗り込むと宣言する百海に、後日冷静になってから話そうと言う銀太。
「鉄は熱いうちに打てっていうしね。鍵開けて待ってなさい」
人生は…
百海たちが到着すると、銀太と不倫相手は真っ青な顔をして正座していました。逃げ出せないように、舞に頼んで外からドアが開かないようにしていたのが功を奏したようです。逃げ場を失って諦めた様子の2人でしたが、ここからは本当に修羅場でした。父親たちの怒号、銀太の母親の涙、百海からの離婚と慰謝料の要求……。不倫相手も既婚者だったようで、本当に大騒ぎになりました。こんなまさかの事態が自分の人生において起こるとは、百海は思ってもみなかったようです。
協力してくれた舞には、お礼としてこの騒動を漫画のネタとして提供。百海は大いにバズったその漫画を読みながら、我ながらとんでもない体験をしたものだと笑ったそうです。そして、SNSで見知らぬいろいろな人に励ましてもらえたおかげで、今では前向きな日々を過ごせているとのこと。
人生はいろいろなことが起こりますが、百海のようにときにはそれも笑いに変えて、鉄のように強く生きていきたいものですね。