久美には、美穂という結婚を控えた妹がいます。近々、結婚式を挙げるのですが、母親から電話があり、ご祝儀だけ送って式には出席するなとくぎを刺されました。
久美は父親似で、美穂は母親似。それが原因かはわかりませんが、母親は彼女たちを子どものころから差別して育ててきました。かわいがるのは妹の美穂だけで、久美のことはブスだの底辺だとの言いたい放題。その扱いは今でも続いていて……。
長女を結婚式に出席させたくない母
ある日の仕事中、久美は母親から何度も連絡を受けました。あまりにしつこいので仕方なく電話をとると、妹の美穂の結婚式に出席するな!という念押しの連絡でした。
「あなたみたいな底辺の家族がいると思われるのも困るし、そもそも新郎側には美穂はひとりっ子だと言っているからこられては困る」というのです。そしてい亡くなった父親に似てブスだし、役にも立たないし……といつものようにけなし始めたのです。久美は心底あきれ、もう連絡しないでほしいと伝えて電話を切りました。
次女の結婚を意のままにしたい母
美穂はある日、母親から連絡を受けました。姉の久美に式には出席しないようくぎを刺しておいたと言う母親に、久美はなんでそんなことをしたのか尋ねました。すると、「美穂のためにやったことだから。賢いあなたなら理解するわよね」と、あたかも当然なことのように言ったのです。
美穂は母親が言うことに対して逆らうことなく、素直に話を聞いていました。そして、結婚式ではきれいな姿を見せることを約束し、母親に楽しみに待っているよう伝えました。「お母さんにとっても、忘れられない日にするからね!」 そのセリフの本当の意味を母親が理解するのは、それからしばらく後のことでした。
母親の知らなかった真実…
久美のもとに、また母親から連絡が入りました。
「絶対に結婚式には参加しないでね」
「式なら先週終わったよ?」
「は……?」
最後の念押しとして連絡したはずが、久美から衝撃的な話を聞き、母親は慌てて美穂に連絡をしました。
先日美穂が母親の話に合わせていたのは、彼女が本当のことに気づいていないことを確信するためでした。そして母親が何も気づいていないとわかると、無事計画が遂行できるひと安心。
じつは美穂は母親を嫌っており、久美のことは自慢のお姉ちゃんと慕っていたのです。ですから、結婚式にきてほしかったのは姉のほうで、大切な姉をしいたげる母親には絶対に参加してほしくなかったのでした。そこでひと芝居打ったというわけです。
美穂の結婚式はすでに無事執り行われ、宣言通り、彼女は参列者に晴れ姿を披露しました。大好きな姉にお祝いしてもらった美穂は幸せな時間を過ごせ、忘れられない一日になりました。……母親にとっても、忘れがたき日になったでしょうけれど。
姉妹は母親と決別して…
姉妹のこれまでの人生は、不運なものでした。母親は自分の理想を言うことを聞くほうにすべて押し付け、従わないほうには罰を与えてきたのです。子どものためと言いながら、すべては自分自身のためにやっていたこと。母親はそのことに気づけませんでした……。娘たちはこの機会に、母親に見切りをつけることにしたのです。
ここまでされてやっと自分の置かれた状況に気づいた母親は、すっかり気力を失くし、ひとり寂しく引きこもる生活を送っていると言います。一方の美穂と久美は、自分たちを苦しめた母親から離れたことで気がラクになり、性格が明るくなりました。2人はいまも仲良く、それぞれ幸せに暮らしています。
子どものためと言いつつ、親の理想を子どもに押し付けていることは意外とあるかもしれません。子どもの本当の気持ちを理解し、寄り添って応援できる親でありたいですね。